4巻映画を見ての妄想

 

「今日の変身術は、クリスマスに行うダンスのレッスンをします」

マクゴナガルの四角い縁の眼鏡の奥でキラリと黒目が光った。

数年に1度行われるクリスマス・ダンスパーティー。そこで生徒たちを中心に朝まで踊り明かすという。

そして今回は他校も招くというのだから先生方は張り切らずにはいられない。

今日の変身術はグリフィンドールだけの授業で、マクゴナガルは俄然張り切っていた。

変身術の教室の机と椅子は壁際に寄せられて教卓の上には蓄音機が置いてあった。

女子と男子はマクゴナガルを中心にそれぞれ向かい合って座る。

マクゴナガルは中心に移動式の黒板を魔法で出しダンスの基本やステップなどを書き込んだ。

女子は真剣に(それこそ食いつくように)先生の話を聞き、男子は興味無さげに、しかし耳をそば立てて聞いていた。

しかしそんなことは学校一の問題児たちには全く関係の無いことだった。

 

「なーんでわざわざ学校でダンスなんて踊んなきゃいけないんだ?」

シリウスは顔を顰めて隣の相棒に言った。

「それはだね、シリウス君。君とは違うモテない奴らがこの機会に愛しのあの子をゲットするためさ」

ジェームズは周りの奴らの目も臆せず言ってのけた。

「それより、俺らが盛大な悪戯をしたほうが他校との親睦が深まると思うが」

「その通りだよ、相棒」

二人は見詰め合ってくすくすと笑いあった。

 

「随分と余裕のようですね?ポッター、ブラック」

 

マクゴナガルの声が教室に響く。目という目が彼らを捕らえる。

「余裕なあなたたちに見本になってもらいましょう。ブラック、前へ来なさい」

女子がどよめく。

シリウスはジェームズをちらと見、肩をすくめて前へと出た。

「私が何も説明しなくてもわかりますね?」

「大方」

「それじゃあ、エヴァンス。音楽をつけてください」

教室には古臭い3拍子の音楽が流れる。

シリウスは片腕を優美に身体の前に折りマクゴナガルにお辞儀した。

女子は溜め息を漏らし男子は口笛を吹き囃し立てる。

彼は彼女の手を取り、腰に手を当てる。

シリウスの、そのひとつひとつの動作が優美であった。クラスにいる生徒だけではなく、マクゴナガルも息を呑む。

彼は音楽に合わせてステップを踏む。完全にマクゴナガルをリードしていた。

みんな息をするのを忘れたかのように見いっていた。

音楽が終わるとまたシリウスはマクゴナガルに一礼した。

最初に拍手をしたのはジェームズだった。

それからパラパラとまばらに拍手が送られた。

マクゴナガルは「あぁ、そうだった。彼はこんなことしなくても家で…」という顔をしていた。

 

それをきっかけにシリウスと踊りたいという志願者がより一層増えたという。

 

06/09/20

 

 

 

 

 

レグシリ?

 

真っ暗な闇は、この地特有の濃い霧に覆われている。

何の音もしない、静かな夜だ。

 

「シリウス…」

 

僕がゆっくりと扉を開けると、部屋の真ん中にある大きなベッドでくつろいで本を読んでいるシリウスの姿が目に入った。

彼は本から目を上げ、目にかかる前髪を払った。そんな些細な仕草が優雅だった───僕と違って。

 

「どうかしたか?」

「うん…なかなか寝付けなくて…」

「取りあえず中入れよ」

彼は今だ開け離れている扉を顎でしゃくった。僕は急いで扉を閉めた。

「今日は静かな夜だもんな…霧も濃い」

そう言いながら彼は本棚の前まで歩いていった。

僕は心が踊った。

彼の本棚にはたくさんの面白い本がある。

一人で読むのも良いがシリウスと一緒に読むほうが、よっぽど僕は楽しかった。物語が千倍面白く感じた。

 

「何がいい?」

彼は本の背表紙を指で追いながら尋ねた。

「ギリシャ神話がいいな」

 

僕も本棚まで歩み寄った。

母様は、こんなくだらない話は読むなと言うが、僕はそうは思えなかった。

シリウスが持っている本だということが一番の理由だが、確かに面白い話だった。

「お前は最近、そればっかだな」

ふふ、とシリウスは笑みを漏らした。僕も自然と口が緩む。

「さぁ、これから長い夜の始まりだ…」

 

 

そう言ってシリウスはウインクをする。二人でくすくすと笑い合う。

そして本の世界に飲み込まれるのだった。

 

06/10/08

 

 

 

 

 

犬モテモテ話

 

「いくわよ」

「「「OK」」」

「せーのっ」

「「「「シリウスおはよ〜vvv」」」」

「あ、おはよ」

シリウスのサワヤカ笑顔にキャーと黄色い声を上げて4人組のグリフィンドール下級生は大広間へと足早に行ってしまった。

「相変わらずモテモテだねシリウス」

「モテモテって…ただ挨拶されただけだけど?」

シリウスは小首を傾げた。

鈍い、鈍すぎるぞシリウス・ブラック…!と、リーマスは心の中で頭を抱える。

そんな中、非っ常におもしろくねぇ…という顔をしている人物一名。

 

その名もジェームズ・ポッター。

 

 

「お前は鈍すぎるんだよ、シリウス。彼女らの好意が見え見えじゃないか」

リーマスの心情なんかお構いなしに言ってのける。

「そんなのわかるわけねぇだろ。女の子って何で集団で集まって挨拶するのかなぁって思うくらいだよ」

「それに気付いただけでも大進歩じゃない?」

「そうだよなぁ…1年の頃なんてそんなことすら気付かない鈍感王子だったもんねぇ」

しみじみと一昔前を思い耽る老人二人…。

「おーい何トリップしてんだぁ〜?」

「君は1年の頃どの女子よりも可愛かったなぁって」

「は?」

「でもリリーだって可愛いよ」

「いやそりゃそうだけど」

「今だってそこら辺の女子には劣るるに足らずだもんなぁ。はっきり言って普通の女子より綺麗だし」

「右に同じ」

「お前ら俺を褒めてんの?貶してんの?」

「「もちろん、褒めてるよv」」

「(二人して胡散臭い笑顔しやがって…)」

「「何か言ったかいシリウス?」」

「なんも!」

こんな時ばっかり仲が良いよなぁ、と思うシリウスだった。

 

06/11/30