『口を結べ 口を開いているような人は心にしまりがない』乃木希典

 

 

僕ことジェームズ・ポッターは晴れて今年から『私立ホグワーツ学園』の高等部にスポーツ特待生として入学することとなった。

ホグワーツでは財力はもちろんのこと、学力、スポーツ、芸術といった様々な分野に

優れた者達が集まる、この国で一番名高く、由緒ある学校だ。

ここは高等部への入学は原則認められていないのだが、ある基準をクリアすると途中入学が出来るシステムとなっている。

 

入学の日、期待に胸を膨らませ僕は自分のクラス───G組へと向かった。

ホグワーツは初等部から高等部まであり、大半は初等部からの『エスカレーター』で僕のようなのは稀である。

教室に入るとクラスメートが皆、好奇心の目で僕を見る。そして仲間内でひそひそと会話をする。

これは予想内だったので構わず自分の席に着いた。

取りあえず誰かと友達になろうと思い、前の席の───明らかに気弱そうな───人に話し掛けた。

「ねぇ、君も特待生?」

「えっ…!?ち、違うよ!」

「それなら初等部の時からここに通ってるんだぁ〜。いいなぁ」

「そ、そぉ…?」

彼はぎこちなく笑う。

「僕、ジェームズ・ポッター。宜しくね。君は?」

「ピーター・ペティグリュー。こちらこそ宜しくね…」

そう言って彼は目を伏せてしまった。

影から「ほら、特待生がペティグリューに話し掛けてる」「物好きな奴だなぁ」とか聞こえる。

───きっと彼は今までロクな友達に出会わなかったのだろう。

だけど僕はそれに構わず話を続ける。

「エスカレーター組って今教室にいる中で何人ぐらいいるの?」

「君以外みんなそうだよ」

「やっぱり少ないのかぁ…」

そこでピーターは話続ける僕をちらりと見て言った。

「…ポッターは何で特待生になったの?」

僕は内心ほくそ笑む。

「『ジェームズ』でいいよ。僕もピーターって呼ぶね」

ニッコリ笑うと、彼はそれはもう、嬉しそうに笑顔を返した。

そうして僕らはホー ムルームが始まるまで何や彼や話し合った。

 

ピーターの話に依ると、このクラスの特待生は自分を含め全部で三人。

一人はたっぷりとした濃い赤毛のこれまた可愛い美少女で、もう一人が鳶色の髪の顔色の 悪い少年だった。

彼らは担任が来るまで仲良さげに話していたので、お互い顔見知りなのだろう。

 

 

 

* * *

 

 

 

入学式。

当然クラス毎のABC順なので僕はピーターの後ろだ。

教頭兼一年G組担任のマクゴナガルが開式をし、僕の学園入試面接官でもあった校長、ダンブ ルドアがステージに上がり、挨拶をする。

そして生徒会会長の曲がないスピーチを聞き、まどろみかけた頃だった───僕の人生で一番深く胸に刻み込まれた瞬間だった。

「新入生代表から、ブラック・シリウスお願いします」

マクゴナガルのきびきびとした声の後に周りの空気が揺れる。特に女子の。

半分眠りの世界に行き掛けた僕はその変化に気付き現実世界に戻り、前にいるピーターに尋ねた。

「あれ?さっき話さなかったっけ…G組の人だよ。ほら、国会議員のブラック・オリオンの長男」

 

ブラック議員を知らない者はまずこの国にはいないだろう。

若い頃からめきめき頭角を現し、それで顔も飛び切り良いので一種の国民的アイドル状態だ。

マスコミが彼を『国会のプリンス』と呼んで以来、その渾名は定着している。

何でも彼は超別嬪モデルと身を固めたとかなんとか。

その彼の息子がこの学校にいて、しかも自分と同じクラスだと言われても実感が湧かない。

 

「朝はいなかったよね、彼」

ステージに上がっていく長身の彼の姿を目で追いながらピー ターに尋ねた。

自分と身長は同じぐらいだが、彼の方が脚が長そうだ(さすがモ デルの息子)。

「うん。ブラックは朝来る時間がいつもまちまちだから…」

「朝遅れなきゃならない用事って何だろう?」

「さぁ…変な噂は色々聞くけど、本当のコトはわからない。彼と何て今まで同じクラスになったことなかったしなぁ…」

彼は校章が彫られている教壇を挟んで僕ら生徒と向かい合った。

後ろの方で女子が「あぁ」と感極まる声を上げた。

僕は低く口笛を吹き、にやりと笑う。

 

「───別嬪じ ゃん」

 

テレビでよく見るオリオン氏にも似ているが、たぶん彼は母親似なのだろう。父親とは違う顔の整い方だった。

彼は明朗な声で謝辞を述べる。僕は彼の声に聴き惚れ、口を開けたままうっとりとその綺麗な声を聴いた。

国会で演説する父親のに似て透き通る良い声だ。もっと聴いていたいと思った時、それは終わってしまった。

僕はがっくりと肩を落とす。

 

(あんな奴が自分と同じクラスなのか…)

 

これはすごい偶然だ。運命と呼んでも良いかもしれない。

だって彼と同じク ラスになれるのは彼を除く三十九人しかいなくて、僕はその中の一人になったのだから。

(彼と、話してみたい)

ちょっとした楽しみが増えた十五の春だった。

 

07/01/16掲載

07/03/07