『新しい集団に入ったらその集団の気風をよく見極めて自分をそれに合わせる』 ニュートン

 

 

入学式から三日目。

僕が教室に入るとピーターが何かを机に広げて読んでいた。ピーターは僕に気が付き、へらりと笑った。

 

「おはよー」

「おはよう、ピーター。何読んでるの?」

「これ?うちの新聞局の最新号だよ。見る?」

「見る見る」

ピーターが後ろを向き、僕の机に一般の新聞紙より一回り小さい二つ折りの『ホグワーツ四次元新聞』を広げた。

「結構マイナーなんだけどね…でもファンは多いんだ。

 購読料は一部三百円。不定期に出されていて、欲しい人は新聞局に申し込み手続きをするんだ。

 で、新聞ができるとその分だけコピーして朝僕たちが学校に来る前に、その人の机の中に入れておくんだ」

「本格的だなぁ」

そう言って僕は新聞に目を通した。

トップ記事には入学式のこと、明日行う生徒総会のこと、今年度の決算報告。

ページを捲るとホグワーツ学園内やホグワーツ周辺の穴場スポットや迷信などが略地図といっしょに面白おかしく書かれている。

僕はピーターのオススメ(大学の敷地内にある一番大きい食堂の昼食Aセット¥1000がおいしいとか、

学園から徒歩五分に位置する『ベーガ・ベーカリー』のメロンパン¥100がおいしいとか)を聞きながら略地図で確認し、

頭の片隅に入れておいた(列車に三十分揺れ、地下鉄で来る僕はまだこの辺りを知らないのだ)。

 

それを一通り見終わった後ページを捲り、僕は自分の目を疑った───自分の写真が載っているではないか!

「あ、特待生全員の顔写真載ってるね。何で入ったとかも書いてる…わ、出身校まで載せてるよ!」

ほら、ジェームズもいるよとピーターは楕円状の枠内にいる僕を指した。

写真は入学式の日に撮ったクラス写真に手を加えたものだった。

特待生は全部で6人。G組はエバンス、ルーピン、それに僕。R組に男女一人ずつ、S組に男子一人だった。H組には誰もいない。

「あれ?H組には誰もいないんだ。随分クラスによってバラつきがあるなぁ」

「うん。昔から特待生はH組にはあまり入らないんだ」

「どうして?」

と尋ねると、ピーターは一瞬ためらったが口を開いた。

「…ホグワーツの初、中等部は能力をどのクラスも均一にしてるんだけど、

 高等部になると個々人の能力別にクラスを分けられるんだ───進路を決めるからね。

 で、その中でよくH組は『劣等生の溜まり場』って昔から言われてるんだ。

 実際、僕自身も高等部に入るまで自分はH組に入ると思ってたし…。

 大抵特待生っていうのは、あるずば抜けた能力を持って入って来る人達だからH組になることはほとんどないんだ」

「なるほどねぇ〜。で、他のクラスはどういう奴の集まりなの?S組やR組は?」

「……ジェームズ、そんなことも知らないでよく特待生になれたね…」

ピーターは困った笑顔を浮かべた。

「えっ?それを知ってることってここでは常識なの?」

「うちの学校の宣伝文句のようなものだよ。高等部のパンフレットとか見なかったの?」

「ま、まぁまぁ見たかな…」

実際にはパンフレットなんて特待生制度のところと自分が所属される部のところしか見ていない

(だってパンフレットのくせして五十ページ以上あるんだから!)。

 

そんな僕の様子に察してピーターは親切に教えてくれた。

「R組は頭が良い人が多いんだ。

 四つのクラスの中で一番進学率が高くて、この国で一番偏差値の高い大学や医学部を狙ってる人が多い。

 ほとんどの親が医者か弁護士だよ。成績優秀者で特待生として入ってきた人は大抵このクラス」

僕はR組の人のプロフィールを見る。男女ともに成績優秀者で、写真に写っている姿も真面目そうだ。

「S組はお金持ちのエリート集団。このクラスの人は親の会社を継ぐとか、将来が約束されている人が殆どなんだ」

S組の特待生の顔写真を見た。何となく人を小馬鹿にするような顔付きだ。僕は名前を見た。

「───ニコラス・ターベルって、あの『ターベル産業』のターベルかい!?」

「きっとそうだよ。ついでに言うと、昔からS組はガラの悪い人が多いんだ」

僕はトイレでたむろしていた、明らかにガラの悪そうな奴等を思い出した。

ピーターは続ける。

「そしてG組は昔から芸術系の人が多いんだ。もちろんスポーツも。特待生は一番G組に入りやすい───ほら、エバンスもルーピンも」

 

<一年G組>

Lily Evans
芸術部音楽科ピアノ専攻
セイント・ルピア中学校卒

Remas Lupin
芸術部美術科専攻
セイント・ルピア中学校卒

Jamus Potter
スポーツ特待生
ウェーデキントン中学校卒

 

「やっぱりあの二人は同じ中学出身だったんだ!」

僕はあの仲良さげな物静かな二人の姿を思い浮かべる。

「あ、ホントだ。知らないなぁこんな中学校」

「セイント・ルピアはここから随分遠いよ。交通の便があんまり良くないんだよなぁこの辺りは」

「へぇ〜。僕なんてホグワーツから家まで自転車で十分だよ」

「羨ましいなぁ。僕なんて家から学校まで片道一時間だよ」

僕は残りの特待生のプロフィールと顔を覚え、その下の記事に目を向けた。

 

P.B.の七不思議!?

 

「『P.B.』って何?」

「『Prince Black』の略だよ。この新聞でブラックはこう呼ばれてるんだ」

 

今年高等部に入学し、入学式でスピーチをした『学園のプリンス』ことシリウス・ブラック(十五歳)は言わずもがな、

その溢れんばかりの才能と美貌で幅広い世代(高等部だけではなく中等部、大学生、先生までも!)の女性から絶大な人気を誇っている。

しかし、そんなブラックには謎が多い。その謎は噂に噂を呼び、女生徒達はこれを『7SoB(=7 Secrets of Black)』と呼ぶ。

これを機に、編集部は女生徒を中心に聞き込み調査をした。以下がもっとも一般的な7SoBである。

 

・何故毎日のように遅刻をするのか。

・何故休み時間になると忽然と姿を消すのか。そして何処に行くのか。

・体育の時、いつもギリギリに来るのは何故か。

・自宅は何処か。

・両耳につけている(多くの女生徒がサファイアだと言った)ピアスは誰から贈られた物か。

・銀の懐中時計は誰から贈られた物か。

・歴史科のアルファード・ブラックとは親類なのか。

 

 

「僕ね、未だに信じられないんだ」

ピーターが新聞紙に目を止めたまま言った。

「何が?」

「ブラックがG組に入ったコト。僕てっきり彼はS組に入ると思ってたから…」

「どうして?彼の両親の職業って後を継ぐようなものじゃないだろ?その道に行くのに有利になるってだけで…」

「実はね、ブラックの母親は貴族出身なんだ」

「えぇっ!?」

「両親共に名字がブラックで、母親はブラック財閥のご令嬢なんだ」

───君の真相はどれも驚きばかりだよシリウス・ブラック!

「そんな話誰から聞いたの?」

僕は不思議に思って尋ねた。

「これからだよ」

とピーターは苦笑いしてホグワーツ四次元新聞を軽く指で叩いた。

「この新聞は結構ブラックの特集をやってるんだ───そうすると女子に売れるからね」

シリウスは自分の知らないところでこのような噂が広がっているのを知っているのだろうか、とふと疑問に思った───自分だったら嫌だな。

 

チャイムがなり、周りがガヤガヤと席につき始めた時、ピーターは突然ぼそぼそと何か言い出した。

「…G組はね、確かに昔から勉強や運動ができて、其の癖、授業中に居眠りする人はどのクラスよりも多い。だけど、」

ピーターの横顔に一瞬『影』が射す。

 

 

 

「『ある意味』での問題児も多いんだ」

 

 

 

 

07/01/21掲載

07/03/07