『友を得る唯一の方法は自らその人の良き友となることだ』 エマーソン

 

 

「ゴメンっ!!」

次の日、たまたまシリウスと朝玄関で会って一緒に教室に入った時、開口早々アランがシリウスに謝ってきた。

同時に昨日のグループのみんなが口々に謝ってきた。

「…俺らであの後話し合ったんだ。俺らにも悪いところがあったって…」

「私たちも、無駄にあなたを祭り上げてたでしょ…?それって嫌よね、誰だって」

シリウスはいきなり六人いっぺんに謝られて戸惑っていた。

「俺、まだ『そういう偏見』でしかお前のコト見れないけど…

 だけど、これからはお前のことを『ブラック家の人間』とかじゃなくて、一人の人間として見ていこうと思ってる」

だからまずは仲直りからと思って…と言ってアランは照れながらシリウスに右手を差し出した。

彼はきょとんとしてたが、至極嬉しそうに微笑みその手を握り返した。

 

 

 

 

 

それから数日後の四時間目終了の時だった。

授業終了のベルが鳴り、それまで起きていた生徒も熟睡していた生徒も号令に合わせて礼をした。

 

午前最後の授業はシリウスの叔父アルファード・ブラックの世界史だった。

ブラック史は昼食に食べに行こうとする僕とシリウスを呼び止めた。

 

「シリウスとジェームズ、すまないがこの教材を運ぶのを手伝ってくれないか?」

 

ちなみに、生徒を名前で呼ぶ先生は彼だけだった。

僕らは快く頷き、彼の部屋まで教材を運んだ。ホグワーツでは教員一人一人に一つ部屋が与えられているのだ。

 

 

 

ブラック史の部屋に行くと、シリウスの弟レグルスが来客用のソファに脚と腕を組んで座っていた。

「遅い」

彼は不機嫌そうに言った。中等部の制服を着た彼は私服を着ている時よりも大人っぽく見えた。

「レグ、またここに来てたのか」

シリウスが窘めた。

「今日は調子が悪かったんだよ」

レグルスは頬を膨らませて言った。

「本当だよ、シリウス。あ、それはここに置いて…」

彼らの叔父が二人を宥めて言った。

「ねぇ、それより一緒に食堂行ってお昼食べようよ。この人なんかほっといて…」

とレグルスは兄の腕を引っ張り僕を振り向き不敵そうに笑った。

「ちょっ…待てよ、レグ。ジェームズ、お前どうすんの?」

「悪いな、シリウス。私はジェームズと少し話があるんだ」

僕が答える前にブラック史が朗らかに答えた。

「まさか、教材を俺らに運ばせたのってジェームズと話がしたくてレグを俺と一緒に追い払うため?」

シリウスは顔をちょっと顰めて叔父の顔を窺ったが、彼が微笑んでいるのを見て呆れた顔をした。

「それなら丁度いいや。シリウス、早く行こう!」

レグルスはシリウスの背中を押して部屋から出ていった。そんな二人の姿を彼らの叔父は優しそうな目で見送っていた。

ブラック史は僕の視線に気付き、苦笑しながら僕に椅子を勧めてくれた。僕は一言礼を言ってそれに座り、彼もまた向かいに腰掛けた。

 

 

 

 

 

「今日君を呼んだのは言うまでもない…シリウスのことでだ。彼と一番仲が良い君に伝えたいことがある」

ブラック史は僕の目をしっかりと見据えて口を開いた───あぁ、彼の目とおんなじだ。

真っ直ぐで誠実な瞳。

 

「彼から既に聞いただろうが…彼の父親と母親はシリウスにまともな愛情を注がなかった…

 本当なら私はレグルスだけじゃなく彼も一緒に引き取りたかった。

 だけど彼はそれを望まなかった…否、望めなかったのほうが正しいかな」

 

僕は小さく頷いた。

彼は両親に愛されないとわかっていてそれでも愛されたいと願っていることはこの前の話だけで十分伝わった。

 

「…この間、マクゴナガル女史とお話する機会があってね…

 彼女がとても嬉しそうに私に報告してくれたんだ───『シリウスにも新しい友達ができたようです』って」

僕は身体測定の時、すれ違いざまに彼女が密かに微笑んだことを思い出した。

 

「シリウスの親代わりとして礼を言うよ。ありがとう、ジェームズ。君のお陰でシリウスも変わった」

と言ってブラック史は深々と頭を下げた。

 

「いえ…そんな、僕だって最初は興味本位で近付いただけで…」

そこまで言って自分がひどく失礼なことを言ってるのに気付き顔が熱くなった。しかしブラック史は快活に笑っていた。

「確かに、シリウスは『誰の興味も誘うモノ』を持った人だよ」

しかしだね、と彼は続ける。

「君はそんな彼の誰にも破れない厚い氷を溶かしてくれた人だ───この学校にはもうそんな人はいないと諦めかけていたんだが───

 兎に角、君には感謝してもしきれない。これからも彼と仲良くしてやってくれ」

 

そんな彼の姿は本物の父親の様であった。

 

 

 

 

 

 

 

シリウスの秘密を知って以来、僕らの仲は『真に』良くなったと思う。

まずシリウスが僕を名字ではなく、名前で呼ぶようになったこと。お互い何処となくよそよそしい喋り方をしなくなったことだ。

 

初め、入学式に彼を見た時には彼とこんなにも仲良くなるなんて想像すらしなかった。

自分も他の人同様、彼を見ているだけで終わるんじゃないかと思ってた。

だけど、実際は今彼とこうして校内を肩を並べて闊歩しているのだ。

自分にとっても彼にとってもお互いの存在で随分未来が変わっていたと思ってる。

 

 

「そのピアスって誰からの贈り物なの?」

ある日、ブラックの七不思議が未だ解けていないことを思い出し、シリウスに問うた。

彼は快活に笑って言った。

「これは贈り物なんかじゃないよ。自分で買ったんだ。

 これはサファイアでも『昔の彼女の別れを惜しんだモノ』でも何でもない。ただの偽物」

「じゃあいっつもポケットに入れてる銀の懐中時計は?」

「これはアルに中等部入学祝に買ってもらったんだ」

「……結局君の七不思議は周りの奴等の妄想にすぎないってことか」

「そゆこと」

 

 

07/04/02掲載

08/03/18