いいな。
『影と形』『偽双子』とは生徒だけではなく先生たちからもよく言われる。
顔まではさすがに似てないが、背丈や体格は同じくらいだ。
彼らは片時も離れず、いつも一緒にいる。同じ言葉を同時にハモらせることなんておちゃのこさいさい。
みんな、二人の間では心が通じあっているのではないかと言う。
そういうわけで彼らは学校中の人達に『影と形』『偽双子』と呼ばれていた。
「ホント、ジェームズとシリウスって双子みたいだよね」
ある日、珍しくリーマス抜きで(ただ監督生の仕事でいないのだ)談話室の椅子に座って、
ジェームズとシリウスがチェスをしている時に、ふと思ったことを口にした。
「でも、俺はそこまで似ているとは思わないな」
シリウスがビショップを動かしながら言った。
「僕もそう思う…はい、チェック・メイト」
「げっ、そうくるのかよ!?」
シリウスは唸りながら手を顎に添えて考え始めた。
ジェームズは椅子に深く腰を掛けなおし軽く溜め息を吐いた。
「だってほら、こうやって僕たちがチェスしても必ず優劣がつくだろ?
………よくみんなは僕たちの間では心が通じあっているとか言うけど、実際僕たちは赤の他人で、
もちろん僕はシリウスの心の内なんてわからない。そしてシリウスも僕の心の内はわからない。
だからシリウスは今真剣に次の手を考えている」
シリウスをちらりと見ると、彼はまだチェス盤を見て唸っていた。眉根には皺が寄っている。
「シリウス、もう降参したら?」
ジェームズは意地悪く笑いながら言った。
「〜〜〜っ!」
シリウスは本当に悔しそうだ。チェス盤を見ても僕には次の手は浮かばない。
「『負けました』は?」
「…………負けました」
シリウスはジェームズを睨み付けながら、地を這うような声で言った。
「よくできました」
と言って、ジェームズはシリウスの頭をなでなでと撫でた。シリウスはその手をバシリとはたいた。
「痛いじゃないか」
しかしジェームズは全く痛そうではなかった。
「うるさいっ!『よくできました』じゃねぇっ!人を餓鬼扱いしやがって…っ!」
「ほら、僕と似てないだろ?口は悪いしすぐ怒る」
───確かに。
シリウスはぷいと顔を逸らした。顔は怒りのせいでほんのり赤い。
「シリウス、そんなことしたってかわいいだけだよ」
ジェームズがにやにやしながら言った。
「勝手に言ってろ!」
「それじゃあ勝手に言わせてもらうよ…まぁ、そういうわけで、僕たちは全くと言っていいほど似ていない」
「でも、ジェームズとシリウスって仲良いよね。いつも一緒だし…」
「僕もコイツもお互い話が合うから」
「今は合う気がしないけどな」
シリウスが皮肉って言った。僕は慌てて話を続けた。
「あと、二人が別々の場所にいる時、お互いの場所がわかるのってすごいと思うんだ。
…僕もそういう人がいたらいいな、って思う」
「自分の今どこにいるかがわかる友達が欲しいのか?」
変なの、とシリウスは首を傾げた。
「えっと、そゆんじゃなくて…一番、親密…いや、わかりあえてる…心から信頼できるっていうか…」
「つまり僕たちみたいな」
「簡単に言ったらそう」
そして僕らは数秒沈黙した後、ジェームズが口を開いた。
「…これ知ってる?人間は昔、男男、男女、女女という、今でいう人間二人分の存在だったって」
「知らないね」
「僕も」
「これはマグルの本の受け売りなんだけどね…その存在が神様の手によって真っ二つに分けられたんだ。
で、今の人間はその自分の半身を求めて彷徨っている…しかし、その片割れ同士が生きている間に出会うことは不可能に等しい。
なんたって何十億人のうちの一人を見つけるんだから…でも、極稀にその二人が出会うことがある」
「まるで、ジェームズとシリウスみたいだね」
僕には悪気はなく、ただの羨望で言った。
ジェームズは何も言わず、微笑んだだけだった。シリウスは目を横に向けて暗い窓の外を眺めていた。
確かにジェームズとシリウスは羨ましいほど仲が良い。ジェームズが話した、半身に値する二人だと思う。
だけど───僕は先ほどの二人の雰囲気から───そんな安易に彼らのことを
『影と形』『偽双子』とか言ってはいけないんじゃないのか、と思ってしまった。
別にジェーとシリが仲悪いわけじゃないよ!(じゃあ何だよ)
今回のジェームズさんは哲学者っぽい。
あと、
『人間は昔、男男、男女、女女という、今でいう人間二人分の存在だった』
って書いてある本は本当にあるようです。海辺のカフカを読んだことある人だったら知ってると思う。
本にこの話が出てきて、「これってジェシリじゃんっ!」って思って浮かんだのがこの話。
06/09/02