空を見上げると、雲は一つもない快晴―――絶好のクィディッチ日和だ。
今日は天気といい、自分の気分といい最高の日だった。
―――今日は敵にも味方にも点を入れさせないで試合を終わらせれるかも…。
それぐらい僕は絶好調だった。
更衣室に行くと、チームのみんなは先に着替えを済ましていて僕一人で着替えをしていた。
ちらりと時計を見るとまだ試合開始まで三十分近くあった。
丁度着替え終わったころ、カチャリとドアの開く音が聞こえた。
僕は口元に弧を描き、訪問者に気付かれなさそうな場所に身を潜めた。
訪問者は僕を探しているのか、あたりをきょろきょろ見回しているようだった。
彼は中へと入り、僕が身を潜めている場所まで来た。
いまだ―――
「わっ!」
「ぉわあぁっ!!」
訪問者―――シリウス・ブラックは身体をビクっと強張らせ雄叫びをあげた。
「ははっ!引っ掛かってやんの〜♪」
「―――っ!ジェームズっ!」
シリウスは僕を睨んで怒鳴った。
実を言うと、シリウスはたまにこうやって試合前に更衣室に寄ってくれるのだ。
選手以外、ここは立ち入り禁止なのだが、僕の親友ということで彼は免除されていた。
「…驚かされるんだったら来なきゃよかった」
「ごめんごめん…今日は気分が良くってね」
「気分が良くても悪くてもお前はいつも人を驚かしてないか?」
「そうかな」
ふふ、と自然に笑みが零れる。シリウスもつられて微笑んだ。
こんな些細な会話のやりとりがすごく楽しい。
いや、たぶんこれは『シリウスと』だからなんだろう。
「試合のたんびにここ寄ってもいいんだよ?」
「お前はいいかもしんないけど他の奴等がどう思うか…」
「文句を言った奴がたとえキャプテンだったとしても、僕の我儘は貫かせてもらうよ」
「ホント、お前って傲慢だなぁ…」
嫌味ったらしくではなく、そんな僕の言葉にどこか甘んじているような、困っているような言い方だった。
「そんなに平気そうなら別に今日ここに来る必要なかったな」
「そんなことないよ!」
僕は試合前に君の顔を見てどれぐらい緊張が和らぐことか。
「だってここに来なくてもゲート前に寮生と一緒に声援送れるだろ?」
「あそこではほんの一瞬じゃないか。こうやってまともな会話ができない」
「それもそうだけど―――っておい、時間大丈夫なのか?」
「え―――」
なんとシリウスと話しをしてもう二十分も経っていた。
「もうそろそろ行くとするか」
僕とシリウスはイスから立ち上がった。
「がんばってこいよ」
「うん。ホグワーツ史上最短で試合を終わらしてくるよ」
「お前が言うと冗談に聞こえないな」
数秒見つめ合って同時に吹き出した。
今日はなんて気分がいいんだろう―――
「シリウス、」
ん?と聞き返そうとした彼を抱き締めてキスした。
彼はじたばたともがいたが、しだいに僕の成すがままになった。
唇を離すと銀の糸が二人を繋いだ。シリウスはとろんとした瞳で僕を見つめた。
薄灰色の瞳は光を反射して銀色となっていた。
「がぜんやる気がでたよ、シリウス」
僕は自分の顎を伝う唾液を袖で拭いながら満足げに言った。
彼は何か言おうとして何度か口をぱくぱくしていたが、次第にそれが治まると同時に眉間に皺が寄ってきた。
―――あ、怒鳴られる。
と思ったやいなや一目散に更衣室を出た。
「ジェームズっ!」
背後でシリウスの怒鳴り声が聞こえた。
「さっさと勝ってお前を一発殴らせろっ!」
その言葉は怒っているように聞こえたが、どこか楽しげであった。
試合開始五分、僕はスニッチを見つけた。まだ両チーム共点数は入っていなかった。
スニッチ目掛けて急降下した。いつもよりもスピードが増す。
―――あと十cm…。
その時何か鈍い、折れたような音がした。しかし今は目の前のスニッチにしか気がなかった。
すると突然、猛スピードを出してた箒は急停止し、僕は地上十五mの高さに放り投げられた。
観客席からは悲鳴が上がる。
僕は杖を取り出そうとしたが、
ボコっ!
と、何か硬いものが腹に命中し僕は空中で墜落する中、意識が途切れた。
――― 身体の体温、唇の熱、銀色に輝く瞳と糸
―――
「…十五mの高さから…」
「…復帰できるか…」
ぼそぼそと話し声が聞こえ、僕は目を開いた。
六人のユニフォームを着た男女がベッドを取り囲むように座っていた。
「―――こ…こは?」
「ジェームズっ!」
「大丈夫!?」
「お前、箒にブラッジャーが当たって十五mの高さから落ちたんだぜ。
さらに運が悪いことにそのブラッジャーがお前の腹に命中したんだ」
「でも顔色良さそうだね。よかった」
「えっと…」
僕が口を開くと、六人同時に黙りこみ僕を凝視した。
バンっ!とドアが勢いよく開く音と、それに気付いた女性の怒った声が聞こえた。
そしてベッドのカーテンが開かれた。
そこにはすらりと背が高く、黒髪の美人が立っていた―――しかし顔はものすごい剣幕の表情だった。
「シリウス!ちょうどよかった…今ジェームズが起きたところなんだ」
シリウスと呼ばれた少年はさっきまでの表情はどこへやら、ほっとした表情へと変わった。
「よかった…」
声も安堵の色を帯びていた―――心地よいテノールだった。
僕は無性に彼の名前が聞きたくなった。
「ねぇ、」
僕は彼に話しかけた。
「君、名前何て言うの?」
その時の彼の驚きと悲しみの表情は今でも忘れられない。
キスシーンは何度書いても恥ずかしい f(//▽//*)