その日の午後十一時、北側展望台―――
「―――そこにいるのはわかってんのよ、ポッター」
まだ鈴のように高い声が凜と夜空に響く。
「なんだ、バレてたの」
するり、とジェームズが何処からともなく現れた。
「こんな時間にこんな場所で何してんのよ」
「シリウスを見てた」
「え?」
と言ってリリーは辺りを見回した。そんな様子にジェームズはくすくす笑った。
案の定、何笑ってんのよ!と一喝されたが。
「『シリウス・ブラック』じゃなくて『あの』シリウスね」
と言って夜空に輝くシリウスをジェームズは指差した。
「キレイね…」
リリーはシリウスを見つめた。
「ところでエバンス、」
ジェームズがリリーに話を振った。
「君こそ、こんな時間にこんな場所で何してんの?」
「あなたに話があるから探してたの」
「へぇ、嬉しいなぁ。何の話?」
「シリウス・ブラック」
あぁ、やっぱり。彼はそう言って笑った。リリーは構わず続けた。
「―――彼のことについてあなたに一つ忠告しにきたの」
「忠告?」
「そう」
一時の沈黙の後、彼女は言葉を紡いだ。
「彼を―――シリウスをあなたに縛り付けようとしたって無駄よ、ジェームズ」
「どうして」
ジェームズが問うた。
「どうしてそんなこと言い切れるの?」
「今日、三本の箒でシリウスが怒って出て行った時の顔見た?」
「―――あぁ…」
そんなの思い出したくもなかった。
「見たよ。―――泣きそうな顔だった」
「たぶん、シリウスはそんな顔した自覚はないでしょうね…―――でも気付いてるわよ、あなたのキモチ」
「そんなの、言われなくたってわかってるよ」
そうさ、あいつは僕の気持ちに気付いてるのに気付こうとしない。僕とは友達のままでいたいと思ってる。
―――あいつも僕を気にかけているのに。
「ズルイよシリウスは…それにあいつは男女問わずあの人気っぷりだろ?独り占めにもしたくなるさ」
「それがダメなのよ。―――あなただってシリウスが誰にも縛られずに自由に生きたいってこと知ってるでしょ?
彼はここに来るまであの家にずっと縛られてたんだから…。
それにもし、あなた達がお互いに好きだと理解し合ったとしても、シリウスが他の女性を愛してしまったら?」
「そうは、させない」
「どうやって」
ジェームズは、そう聞かれるのを待っていましたとでも言うように、にやりと笑った。
「―――シリウスを僕の家族の一員にさせるのさ」
「…『シリウス・ポッター』にでもするつもり?」
「ははっ!まさか!僕の考えは、」
ジェームズが言葉を切った。リリーは固唾を飲んだ。
「シリウスを僕の子どもの名付け親にさせるのさ。そうすればシリウスは僕の家族も同然さ」
「だからってシリウスがずっとあなたと一緒にいる保障はないでしょう?」
「いいや。彼は僕から逃げられない」
そしてジェームズはくすりと笑った。その様子にリリーはぞっとした。
―――あまりにも彼のオーラが凄まじかったからだった。
リリーには何故ジェームズがこれほど自信を持って言えるのかはわからなかった。
それを悟ってか、ジェームズは話を続けた。
「―――いくら僕らが愛し合ったとしても、普通はここまで言い切れないよね。
だけど僕にはとっておきの切り札がある。シリウスを僕に縛り付けて置くためのね…」
「何なのよ」
リリーは背筋が寒くなってきた。
「その『切り札』って?」
「僕が死んで彼に僕の子どもを託すんだ」
「……は?」
―――何を言い出すのコイツは。
「なんでそもそもあなたが死ぬの?
第一、あなたがもし死んだとしてもあなたの妻が残るじゃない?シリウスを名付け親と仮定しても…」
「こっから先の理由はまだ言えないなぁ…
まぁ今言えることは、この絶対的自信の根拠は今まで喋ってきた計画がすべて『僕の夢』だからさ」
―――頭でも狂ったのか。
さっきから話が唐突すぎる。呆れて物も言えないリリーをそのままにジェームズは続けた。
「僕の夢はね、それはそれはよく当たるんだ……シリウスのよりもね…
この話の続きはいずれ時がきたら、ね…さぁ、僕は寮に戻るよ」
夜風がそよそよと髪をなびかせる。―――あれからどれぐらい経ったのだろうか?
「ジェームズってホントわかんないなぁ…」
と、言うよりは彼はわざと自分を他人に判らなくさせてるのでは…?
「『いずれ時がきたら』か…」
―――いずれ、っていつよ…。
ホント話が突然すぎて嫌ですよ…。文が変なのは見逃して…!
お粗末様でしたm(_ _)m