「さよなら」

口から出た最後の言葉だった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「リリー、ハリーを連れて逃げろ!あいつだ!行くんだ!早く!僕が食い止める―――」

僕は引きつったように叫んだ。リリーは怯えながらもハリーをしっかりと抱き抱え部屋を出ていった。

それを見届けた後、僕はズボンの左ポケットに手を突っ込んでちゃんと『それ』があることを確認した。

右ポケットから杖を取り出すと、ドアが勢いよく開かれた。

そして続く甲高い笑い声―――ヴォルデモートだ。

やはり何度見ても不気味な顔だった。

「もう逃げられないな、ジェームズ・ポッター…

 君の親友はお前よりも己のちっぽけな命のほうが大事なんだそうだ…

 ―――どうだ、信じていた友に裏切られる気分は」

ヴォルデモートと対峙したが意外にも自分が冷静であることに気付いた。

「…僕は今でもピーターを信じている…

 たとえ彼が僕達を裏切ったとしても、僕が彼を信じている限りそれは裏切りにはならない」

ふん、とヴォルデモートは鼻で笑った。

「…そんなきれい事、いつまで言えるか…

 我々側に一番近い家系の君の大親友は君達の秘密の秘人ととしてダンブルドアに知られているんだろ…?

 そいつが俺様に寝返りしたと世間サマには思われてしまうな…」

「でも、シリウスには契約した証拠がない!」

無意識に語気を荒げていた。

「ふん…結局、どちらか一つしか選べないようだな、信じる者は…

 確かに、君の大親友には証拠がない。しかし、そんなものもいらない事態が起きたら?」

僕は背筋が寒くなった。まさか―――

「お前が信じてやまないワームテールをブラックが追って、奴が街中でトンズラしたら…?

 …お前の大親友はかなり不利な状況となるな…

 あいつの家といい、あいつの従姉も死喰い人だということもお前は知っているだろう?

 ―――大親友は即刻アズカバン行きだな」

 

そんなはずではなかった。

シリウスだけには幸せに暮らして欲しかった。

僕が死んでもハリーを彼に預けられるよう、彼を名付け親にした。それなのに―――

 

「さて、ここが運命の分かれ道だな、ポッター?

 泣いて俺様に平伏し許しを請うか、俺様にあっけなく殺され、

 濡れ衣をきせられたブラックはそのままアズカバン行きになるか…さぁ、どちらにする?」

僕はゆっくり息を吸い、吐いた。そしたらシリウスの顔が浮かんだ。

そしてズボンの左ポケットに手を突っ込んで『それ』を取り出して左拳に握り込んだ。

「…僕はその中からは選べない」

ヴォルデモートの蛇のような赤い眼がぎらりと光った。

「僕はここでお前を倒すからな!」

そして杖を振り上げた。しかし、相手の方が明らかに優勢だった。

緑の閃光が自分の胸へと突き刺さる。

身体が前のめりに倒れる。頬を床に打った。

途切れそうな意識の中、左拳の中にあるそれ―――シリウスの碧玉のピアスがあるのを確認した。

僕は安堵した―――これからリリーが殺されるというのに。

ヴォルデモートはもうここにはいなかった。

「さよなら」

口から出た最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さよなら、シリウス。そして、愛してる―――


本当ならジェームズはヴォル様に即行殺されて即死だったと思うけど

そこら辺は軽く無視して(笑)

実はこの話は14→30→3と関連していたり。

最後の最後にヴォル様を登場させてみた(笑)

06/06/17