クリスマス当日、あと十分でダンス・パーティーが始まる。だけどまだ寮部屋の全身鏡と睨めっこしている自分がいた。
きっと、シリウスと一緒にいる自分をほとんどの女子が妬むだろう。数週間は子ども染みた嫌がらせを受ける。
それが億劫で今だ部屋で自分のドレスローブ姿を眺めている。
自分で言うのも何だけど、なかなか似合っていると思う。それにクリスマスのご馳走も楽しみだ。
厨房からローストビーフの美味しそうな匂いがしていたのを思い出した。
「リリー!」
友人が綺麗に着飾った姿で寮部屋に戻ってきた。
「何やってるの!?談話室でシリウスが待ってるわよっ!」
ぐずぐずしている私を友人は談話室まで引っ張っていった。
談話室ではシリウスだけじゃなく、もちろんポッターにリーマス、ピーターがいた。
リーマスとピーターは着慣れないドレスローブに居心地が悪そうだったが、
残りの二人は(自分でも認めたくないが)様になっていた。
ジェームズはシリウスのネクタイを結んでいた。
「ちょ…キツいって、ジェームズ」
「これくらいお前の家でも普通だったろ」
「そうだけど…最近ネクタイなんて締めてないのも同然だったから…」
シリウスは襟の隙間に指を入れてぱたぱたとし、女子寮に続く階段に目をやり私がいることに気が付いた。
「おっ、似合ってんじゃん」
そこでポッターがこちらに気付く。
「リリー!さすが君だ!その衣装」
「行くわよシリウスっ!!」
「えっ…お、おぅ」
ポッターを無視して私は先頭を切って談話室を後にした。
予想通り、すごい視線が突き刺さる。興味、羨望、嫉妬を含む男女の視線。
───こうなることは、わかっていたんだから、今日は思いっ切りこの美少年と楽しもう。
ここまでの道のりで心の中でそう決めたのだった。
「君ってそんなにジェームズのこと嫌?」
シリウスが大広間の前で扉が開かれるのを待っている時に尋ねてきた。
「嫌」
シリウスは私の即答に唸った。
「…なんでそんなにジェームズのこと嫌いなの?君のことあんなに好いてくれてるのに」
「私は好いてくれとは一言も言ってないわ。
言わせてもらうけど、あなただってどうしてそんなにポッターのことを好きなの?」
「親友…だから?」
あんた達の関係は親友の域を超えてるでしょ!と突っ込んであげたかったが止めておいた。
その代わり大きな溜め息を吐いた。
「そんな溜め息吐くなよなぁー。折角綺麗なのに半減するよ?」
「その代わりにあなたが引き立つわよ」
「何言ってんだよ!リリーの方が断然綺麗に決まってんじゃんっ!」
ここまで大真面目に言われたら照れる。しかもこんなに綺麗な人に。顔が熱くなっている感じがした。
壮大な音を響かせて大広間の扉が開いた。
「リリー、実はとっても重要なことをまだ君に話してなかった…」
シリウスの顔が強張った。心臓が跳ねた。
───まさか…まさか、あのシリウス・ブラックが私のことを……?
「…俺ら、みんなの前で一番始めに踊らないといけないんだ」
「は…」
そうだ、こいつはシリウス・ブラックだ。
頭脳明晰、容姿端麗で大貴族の御曹司でちょっとした悪だがこの男はシリウスだ。告白なんかするヤツじゃない。
ちょっとでも期待した自分がバカだった…。
───ってちょっと待てぇっ!!?
「何で私たちが最初に踊らなきゃならないのよっ!?」
「いやぁ、それがマクゴナガルのダンスレッスンの時に目を付けられちゃってさ…。
『ブラックとパートナーには最初に踊ってもらいます』っ勝手に決め付けられて、
冗談かと思ってたら昨日、君と約束した後マクゴナガルに会って、
『ダンス、楽しみにしてますよ』って言われて…」
ゴメンゴメンとへらへら笑う彼を見て呆れてしまったが、あぁ変わったなぁとも思った。
入学当初、彼の第一印象は「冷たそう」。
色白と言うよりは青白く、涼しげな目元に何も映さない薄灰色の瞳。
あんなに人形のような綺麗な顔で無表情なのだからそういう印象を誰もが持ってしまうのは当然だろう。
当時、私は知らなかったが周りの人間は誰もが知っている彼の名前。
私が初めて彼の名前を聞いた時、その名前と容姿があまりにもピッタリで関心してしまった。
スリザリン出身がほとんどのブラック家の長男がグリフィンドールに入ったことは他のグリフィンドール生はもちろん、
学校中の生徒、はたまた一部の教師からも受け付けられなかった。
彼の人生が一変したのは、彼が「アイス・ドール」と呼ばれていて、それが「孤高の王子」と呼ばれ始めた時だった。
───多くの女生徒の『シリウス』がシリウス・ブラックだとすると、彼の『シリウス』はこいつだろう───ジェームズ・ポッター。
彼はこの時から既に飛行術と悪戯の才能を発揮し、皆から注目を集めていた。
そんな人気者の彼がシリウス・ブラックに目を付けたのだった。
始めは、ポッターがシリウスに悪戯を仕掛けるために利用するか、
或いは容貌と悪評が目立つ彼の側にいて自分も目立とうとしている魂胆だと思っていた。
しかし、違った。
ポッターは彼の厚く冷たい氷を溶かすために彼に近寄ったのだった。
ポッターと接触する度にシリウスの顔色は良くなり、薄灰色の瞳は光を受けて白や銀に光り輝いた。
もし、ポッターがいなかったらシリウスはどうなっていたのだろう。
まずこんな風にへらへら笑うことはなかっただろう。
「───好きになるのも、無理ないわね」
あなたがポッターを好きになるのも当然。だってポッターはあなたの『道しるべ』だから。
「何か言った?リリー」
「別に。さ、行きましょうか」
私たちはきらびやかに光り輝く大広間の中心へと向かった。
やっぱりスゴイと思うんだよねシリとリリー嬢は
06/12/25