『その席にいない人を非難するな』 ワシントン
『四次元新聞』を見た後、僕達は一時間目の芸術科目の教室へと向かった。
ホグワーツでは芸術科目は音楽と美術に分けられる。僕は音楽、ピーターは美術なので、僕らは階段で別れた。
音楽室に入ると、近くにいた男子四人が、今朝僕らが読んでた『四次元新聞』を読んでいた。
「結構いるんだね、それ読んでる人」
「ポッターも知ってるの?これ」
四人のうち一人が言った。
「知ってるも何も、僕が載ってるじゃないか」
僕がニヤリと笑うと四人は互いに目を合わせてニヤリと僕に笑い返した。
「僕はアラン。右からマイク、ステファン、ジャック。みんな初等部からのエスカレーター組だよ」
と、先ほど話し掛けた少年───アランが言った。
「僕はジェームズ・ポッター。ジェームズでいいよ」
「早速だけどジェームズ、君はサッカー部なんだって?」
ジャックが尋ねた。
「うん。それでこの学校に来たから」
「ライバルが増えたみたいね、ジャックにステファン」
前にいた女子三人組がくすくす笑っていた。
「「うっ…」」
ジャックとステファンは呻いた。
色白で、黒髪の巻き毛の子が続けた。両耳にある小さなゴールドのピアスがキラリと光る。
「この人たちもあなたと同じサッカー部なのよ。私はそのマネージャー。
うちのサッカー部は強いんだけど、わざわざ特待生で入ってくる人はあんまりいないの。
どれだけの腕前か部総出でじっくり見させてもらうわ、ジェームズ───で、いいかしら?」
「いいよ。えっと───」
「ローズよ。よろしくね」
「こちらこそ、ローズ」
『どれだけの腕前か部総出でじっくり見させてもらうわ』って…これはヘマはできないな…。
授業開始のベルとともに音楽教師のマクゴナガルが入ってきた。
僕はジャックの隣に腰を降ろした。いつも騒がしいG組も皆黙って前を向く(マクゴナガルは怒ったら怖いのだ)。
「さて、これが皆さんにとって初めての私の授業ですね。
まずはこのクラスの編成からお話しましょう。音楽クラスは主に二つに分けられます」
マクゴナガルは黒板をスライドさせた。そこには音楽科の仕組みの図があらかじめ書かれていた。
「このクラスの十人が声楽科、残りの十人が器楽科です」
「器楽科は声楽と違って楽なんだよ」
ジャックがこっそり僕に言った。
「何で?」
「声楽はずっと歌いっぱなしだけど、器楽は個人練が主なんだ。
特にピアノは人数も多いし、台数も限られてるから他の奴等より怠けられる」
「そりゃあいいや」
「では、別行動になるので声楽科の人達は私の後に続いてください」
アラン、ステファン、ローズやその友達を含めた十人はぞろぞろとマクゴナガルの後へ続いていった。
「で、僕達はどうするの?」
僕はジャックに尋ねた。
「ピアノ科はそれ専門に教える人がいて、その人のレッスンを三十分受ける。
このクラスでピアノ科は俺と君とエバンスとビアズリー───こいつもかなり上手いんだ───の四人で、
アルファベット順でレッスンを一時間に二人ずつ行うから、今日俺らはレッスンがない。
ちなみにマイクはバイオリンで、今日は運悪くレッスンの日だ」
「要するに、ここでのらくらしてる僕たちはすることがない」
僕らはにやりと笑い合い、ジャックは四次元新聞を取り出した。
「これ、どう思う?」
と彼はシリウスの記事を指で指しながら僕を見た。
「どう、って言われても…」
「だってほとんど毎日遅刻するんだぜ?中等部の時からさ。朝早く来る時なんてテストの日くらいだ。
遅刻の理由はやっぱり女か…それとも家のことかな」
「単に朝が弱いだけだったりしてね」
と冗談めかして言ったが、結構本気だった。案の定、ジャックは軽く笑った。
それと同時にかちゃり、と扉が開きシリウス・ブラックが教室に入ってきた───バイオリンのケース片手に。
僕らは驚いて顔を見合わせ、彼を見た。噂をすれば何とやら、とは言うものだ。
シリウスはそれに構わず(気付かずと言った方が正しい)、窓際まで無駄なく優雅に歩き、ケースを置いて楽器を取り出した。
「ブラックのバイオリンを聴いたら他の人の演奏なんてクソ以下に聞こえるよ」
「上手いんだ…」
「校内のコンクールはいつも優勝、校外でだって数々の成績を修めている」
シリウスは窓の景色───ここからだと中等部のグランドが見える───を眺めながら構え、弓を弾いた。
その音は澄んでいて、演奏者の心を正に反映しているようだった。
近くでは柔らかく、遠くでは透き通って仄かに消え、そしてまた永遠と紡がれる様───それは入学式で聞いた彼の声と似ていた。
「でも、」
その音が届けられるための場所がないようにも聞こえた。
07/01/21掲載
07/03/07