『もし人の悪口を言うならばそれが自分に返ってくることを予期せよ』 プラウトゥス

Peter ver.

 

 

僕が学校に来ると、クラスの男子の中心的グループであるアラン、マイク、ステファン、ジャックが、

これまたクラスの女子の中で中心的グループのローズ、キャシー、エリザと何か盛り上がって話していた。

僕は自分の席に着き、外国語の予習をしながらこっそり聞いていた。

「ジェームズはスゴい」

ジェームズと同じサッカー部のジャックが言った。

「週末に部活があって、彼のプレーを見ておったまげたよ。普通に三年より上手いよ、ジェームズ。

 今日も先輩達と混ざって高体連に向けての朝練に出てるし。あんな技術を持ってて無名の田舎中にいたなんて…」

信じられないとジャックは首を振った。そうね、とローズが続けた。

「サッカーのセンスも素晴らしいけど、勉学の方も凄いと思わない?実際春休み開け実力テストだって理科以外ブラックと同点だったのよ」

「百メートル走だってそうだったよな」

皆うんうんと首を縦に振る。

「俺、ずっとジェームズは俺たちのグループに入ると思ってた」

アランが言った。

「だけど今彼が一番一緒にいるのがブラックだもんな」

「彼、一人でいる人をほっとけなさそうだもんね」

バスケ部マネージャーのキャシーが言った。

「まさかあのブラックを好くとはなぁ…」

ステファンが続ける。

「『プリンス・ブラック』…成績優秀スポーツ万能、おまけに眉目秀麗で母親譲りのスタイルの良さ」

「父親は国会議員、母親は貴族出の元モデル…言うことなしだろ」

「「「学園一のアイドルよ」」」

女子群が目を輝かせながら言った。

「だけどそんな有名な彼には謎が多い」

マイクが顔を顰めながら言った。

「俺、ずっと思ってたんだけど、ブラックって何でこのG組に入ったんだろう?どう考えたってS組の素質じゃん、彼」

「初等部ん時から既に浮いてたもんな。いつも一人だったし」

「中等部の時からだったっけ。遅刻魔になったの」

「そうそう。それでテストの時だけ最初から出てていつも満点取って…俺たちを馬鹿にしてるんだよ、あいつ。

 授業受けてる俺らよりも授業受けてない僕の方が頭が良いんだよーって」

アランが罵った。

「それは言い過ぎよ」

女子テニス部で、一年生にして既にレギュラー入りしているエリザが非難した。

「じゃあそう思ったことないのかよ」

「そんなっ…」

「あんじゃねぇーか」

「今はジェームズとくっついているようだけど、実際中等部の頃は今S組の連中と仲が良かったんだ。

 自分の両親を鼻に掛けてるんだよ、結局」

ふん、とアランは鼻を鳴らした。

 

今やクラスにいる生徒全員が六人の会話にこっそり耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリンっ

 

 

 

 

 

 

 

ガラスが割れる音が間近でし、僕や彼ら、クラスにいる生徒が全員そちらを見た───ブラックが右手を血塗れにしているのを。

どうやら彼が教室のドアに嵌め込まれているガラスを右拳で破ったようだった。

女子はその手を見て小さく悲鳴を上げ、男三人はさっと血の気が引いた。

「おはよう」

彼は笑ったようだが、明らかにその目は冷めていた。ブラックは右手から血を滴らせながら六人の方へと歩み寄った。

彼らは、ブラックの目に見えるような暗く冷たい雰囲気に動けないようだ。視線だけ彼を捕らえていた。

「言えよ」

ブラックが未だ何も言わない彼らに言った。

「言いたい事があるなら、言えよ」

もちろん誰も何も言わない。ブラックはふんと鼻を鳴らした。

「当の本人に聞かれたくない話なら、こんなクラスのど真ん中で大声で喋らないことだな」

ブラックは無表情で、座っている六人を見下ろした。

すると突然アランが弾かれたように立ち上がった。

バスケ部のアランは長身のブラックと同じぐらいの背丈である。対峙している二人の目から火花が飛び散っているようだった。

「お望み通り言ってあげるよ、ブラック!お前は自分の才能と家柄を鼻に掛けている嫌な奴だ!

 高慢ちきなS組の方がよっぽどお似合いだ!」

アランは一息ついて最後の一言を言った。

 

 

「お前はG組にいるべき人間じゃあないよ」

 

 

ブラックは最後の一言に少し目を見開いた。そして睨み合っていたアランから視線を外し、頭を垂れた。

「…て」

ブラックがとても小さい声でぽつりと零した。

「どうして…誰も俺を見ない?」

クラスは疑問と戸惑いの空気に包まれる。

すると突然ブラックはアランの胸倉を掴み血塗れの拳で殴り付けようとした。

アランは突然動き出したブラックに怯みされるがままの状態だったが、

突然現れたジェームズがブラックの右手首を押さえたおかげで殴られることはなかった。

「落ち着け、シリウス」

ジェームズは走ってきたのか、肩で息をしていた。

僕はビックリした。何故ならジェームズを振り返って見たブラックが一瞬泣きそうな顔になったからだった。

しかしそれも束の間、彼は乱暴にジェームズの腕を振り払い、アランの方へ突き飛ばした。

二人が将棋倒しになって身動きできない隙に、ブラックは全速力で教室を出ていった。

 

 

07/03/03掲載

08/03/17