それからというもの、僕はシリウスを探すため校内を走り回った。

途中出会う生徒や先生、ゴースト、はたまた肖像画にも話しかけた。

しかしどの人物からもまともな情報は得られなかった。

 

僕は内心どこかで気付いていた。

 

 

―――他の連中に聞いたって無駄だ…きっと自分にしかわからないのだろう…。

 

 

そう思ってとにかく自分の足が進むほうへ、探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこはホグワーツで一番高い展望台だった。

僕は息を切らしながら必死になって屋上への階段を上っていった。

 

 

 

 

『ジェームズ…君は前の記憶を取り戻したいの?』

 

『なんでそこまでしてあなたはシリウスのことを知りたいの?』

 

 

僕は記憶を取り戻したいためにシリウスのことが知りたいのか?

いや、違う。そんなんじゃない。じゃあ、どうして―――

 

そう考えるだけでも頭がズキズキと痛んだ。

 

 

 

 

 

 

ドアの前まで来て一旦深呼吸して息を整えた。そして古びた、木製のドアを開けた。

視界に広がったのは満天の星空だった。ここでは他で見るより星が多いんじゃないかと思った。

心地よい夜風が顔にあたり、階段を上ってほてった身体を冷やした。

シリウスは石煉瓦でできている塀の上に両腕をのせ、そこに顔を埋めて居た。

―――泣いているのかと思った。

しかし彼は寝ているのか何なのか、僕に気付いてはいないようだった。

 

「シリウス…」

 

僕は彼を驚かさないようにそっと名前を呼んだ。

しかし彼はがばっと腕から顔を上げ勢い良く後ろを振り向いた。

その瞬間、目があった。ずきりと頭が痛み顔を歪めてしまった。

彼ははっとして僕から目を逸らした。そんな彼を見て胸がちくりと痛んだ。

 

「何でここに…?」

シリウスは下を向きながら尋ねた。

 

「僕は君を探してたんだ…聞きたいことがあって…」

僕はシリウスに近付いていった。近付くたびに痛さが増す。

「だけど…その前に、君に言いたいことがあるんだ…」

もう僕はシリウスに手が届く位置まで来ていた。

 

「…そんなに近付くと頭痛くなって前みたいにぶっ倒れるぞ」

シリウスは視線を下げたままだった。

ここまで僕に気を使ってくれるのは嬉しいが、やっぱり目を見て話したい。

「痛いさ―――だけど君に、言わなくちゃいけないことがある…だから顔、上げて?」

 

 

 

 

「…何?」

僕の意志が通じたのか、シリウスはゆっくりと視線を合わせた。頭痛がひどい。

 

 

 

 

 

「前のジェームズとは別人の僕として、僕は君に惹かれている」

それが、僕がシリウスのことを知りたい理由だと思った。

一目見た時―――シリウスが医務室のカーテンを開けて僕の見舞いに来た時から僕は彼に惹かれていた。

 

 

 

 

 

「だけど僕はリリーに言われた通り、小心者だった。

 君が僕のところに来るまでずっと待ってようと思ってたんだ…。

 だけど、君はそうとうの頑固者で一度口にしたことは貫き通した。

 

 だから、待ってちゃいけなかったんだ。

 僕が君のところに行かないと何も始まらないってことに気が付いた。

 これでやっと君に聞ける時がきた―――」

頭痛がひどい。今にも気を失いそうだ。

 

―――あと少しの辛抱だ…。

そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

「君は―――僕にとって、どうゆう存在だったんだい―――?」

 

 

 

ふわりと石鹸の香りがしたかと思うと唇に熱を感じた。

シリウスが僕の胸倉を強引に引き寄せてキスをしたのだった。

驚いて何もできない状態に唇を割られ、舌を絡めとられたが負けじと僕も彼のそれに絡めた。

頭痛も忘れてしまうくらい没頭した。お互い息が苦しくなり唇を離すと銀の糸が名残惜しそうに二人を結んだ。

 

 

―――あれ……これ、どこかで…?

 

 

シリウスは頭を垂れた。夜風が彼の髪を靡かせる。

 

 

「―――るぃ…」

 

 

「え?」

 

 

「―――っずるいんだよお前はっ!」

シリウスは怒鳴り出した。

 

「人がそこまで言わないとわからないのか!?

 どーせ俺は、前のお前にとっちゃどーでもいい奴だったんだろっ!」

 

「ちょっ…、僕には何がなんだか―――」

 

 

 

「―――っ俺は、お前のことが、好きだったんだ…っ!」

 

 

 

突然の告白に僕は驚いてシリウスを凝視した。

彼の声が涙声になった。目も潤んでいる。

 

 

「ずっと一人で寂しかったんだっ!毎日お前と悪戯できなくて退屈なんだっ!」

矢継ぎ早に言って息を荒げていた。

 

 

 

 

 

「早く…記憶戻ってくれよ、ジェームズ…」

 

 

 

 

 

シリウスは溜め息混じりに言うと、それが引き金となってかぽろぽろと目から涙が零れ落ちた。

彼はうーと唸って頭を垂らした。

僕は彼の頬に片手を添えて目を合うように上に向かせた。

濡れた瞳は水のように澄んでいて、星の光を受けてキラキラ輝いている。

そして薄灰色の瞳は光の加減で銀色へと変わる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――あと少しで手が届きそうなスニッチ、箒が折れる音、

             観客の悲鳴、段々近付くグリーンの芝生、腹にあたるブラッジャーの痛さ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、思い出した―――


ホント今回のは恥ずかしいものばっかだなぁ… (//△//;)

06/07/16