どうしてこんなことになってしまったのだろう……。
* * *
「あれ…これ、何だろう?」
クリスマスの賑やかなパーティーがシリウスの実家で行われた後、
なかなか寝付けなかった僕はハグリットから貰った父さんと母さんの写真を見ていると、
二人の結婚式に撮られた写真の一枚が剥がれかかっていることに気が付いた。
一度剥がしてまたはっつけようと思い、写真を引き剥がすとその裏には何か文字が綴っていた。
『親愛なるジェームズへ―――結婚式の写真上手く撮れてるだろ?
でも俺はマグルの写真のほうが味があっていいと思うけど』
この字は間違いなくシリウスのものだった。
写真の裏の右上の隅に『1』と書いてあるのだからまだ続くのだろう。
と、いうことで好奇心に身を任せて結婚式の写真を全部アルバムから剥した。
文字が書いてあるのは全部で4枚だった。その中から『2』を見つけて急いでそれを読んだ。
『先に書き忘れたけど、これが読めるのはポッター家しかできないように魔法かけといたから案心しな―――』
そうか。だからハグリットは気付かなかったのか。
『―――お前からあのコト頼まれて以来、ずっと考えて一週間飲まず食わずだったんだぜ―――
―――冗談だよ』
あのコトって…?疑問と期待が募り大慌てで『3』を読んだ。
『まぁ、一週間は寝るにも食うにもずっと考えていたのは本当だがな……ハリーってのはどうだ―――?』
あのコトって僕の名前を付けることだったんだ!
『―――気に入ってくれると嬉しいんだけど…返事はまた直接会う時にでも聞くよ。それじゃ。
―――末永くお幸せに。シリウス』
なんともハリーは不思議な感覚だった。自分がまさに名付けられる瞬間を見たのと同然であった。
「あっ、そう言えば…」
シリウスの手紙は3枚で終わっているはずなのに最後の一枚が残ってしまった。
読み飛ばしたということはなかったので興味本位で最後の一枚の写真の手紙を読んだ。
『P.S.―――これからデスイーターの影響でしばらく会えそうにないと思う…クリスマスは無理だな、きっと。
いつになったら昔みたくみんなで一緒に騒げるんだろう…』
―――もしかしたら…。
ハリーはふ、とある疑問がよぎった。
―――もしかしたらシリウスは卒業して以来、父さんやシリウスはみんなと一緒にパーティーをしてないんじゃ…
いや、シリウスに限らずルーピン先生だって…!
そう考えるとヴォルデモートに対する怒りが込み上げてきたがなんとか怒りを押さえて
ロンには気付かれないように、だけど急いでまだリビングに居るであろう、
名付け親の元に駆け足で階段を降りていった。
「シリウス…」
リビングは食卓テーブルの上にある蝋燭一本の光で照らされていた。
その蝋燭付近に飲み掛けのウィスキーと突っ伏しているシリウスがいた。
どうやら眠っているようだ。ハリーはシリウスの向かい側の席に腰を下ろし、シリウスの顔を覗き込んだ。
近くで見ると顔がお酒のせいで赤くなっていた。
今はだいぶ痩せてしまって髪も服装もそうとうラフだが、
昔のように―――結婚式の写真にあるようにハンサムな面影が残っている。
「これでもうちょっと肉を付けて髪をなんとかすれば…」
4年生の時のような10歳若返るシリウスになるのに。そう思ってくすりと笑った。
―――僕はひょっとしなくてもかなりの面食いだなぁ…。
「…ごめん…ハリー……」
ハリーは心臓が飛び跳ねた。シリウスが何か寝言を言っているようだった。
耳を澄まして聞いてみる。
「…ごめん…クリスマス行けなくて…ごめん……」
ハリーはその場で棒立ちとなった。
その間もずっとシリウスは謝り続けた―――夢の中の赤ん坊のハリーに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう……。
僕がたまたまクリスマスの真夜中にアルバムを見て。
たまたまその中の結婚式の写真が剥がれかかってて。
たまたまリビングに降りていったらシリウス以外誰もいなくて。
たまたま彼の寝言を聞いて。
シリウスは泣いていた。それでも「ごめん」と言い続けた。
ハリーは無意識のうちにシリウスの髪を梳いていた。
「大丈夫だよ、シリウス。僕は15年待ってるから」
あなたが脱獄して13年たってやっと今日、クリスマスを一緒に過ごせたのだから。
シリウスは少し微笑んだように見えた。
少なからず僕の言葉は彼の夢の中に届いたのだろう。
それからは安らかにシリウスは眠っていた。
やっぱりシリウスには生き続けてほしかった…(泣)
06/02/11