床にばら撒かれた砂糖をじっと見つめる。
リリーはぎょっとして自分が今しがた使おうとして落とした砂糖を見つめる。
そうして俺を見つめて言った。
「どうしましょうシリウス…砂糖が落ちたっていうことは何か不吉な予兆かしら…」
いや、そんなジンクス初めて聞いたから。
* * *
何故俺とリリーがジェームズを差し置いて二人でお菓子なんか作っているかと言うと、
『シリウス、あなた甘いもの苦手なくせにお菓子作りが上手なんですって!?
…こら、逃げるんじゃないわよ。リーマスが言ってたんだから…ほら食堂に行くわよっっ!!!』
と無理やり引っ張ってこられて
『リーマスにこの間あげたってゆーチョコケーキの作り方教えてっ!!』
と必死になって頼まれたのだ。リリーもやはり女の子だ、と改めて思った―――口には決して出さなかったけど。
もうすぐ2月14日、バレンタインデーのである。
言うまでもなく俺の唯一無二の相棒、ジェームズのために。
もちろんのことだが、快く「OK」と申し上げた。ただし、俺が教えたということは決して言わないという条件付きで。
そうして今にいたる。
「リーマスに、やっぱりもらうとしたらお菓子は手作りがいいかって聞いてみたの」
落とした砂糖を片付けチョコケーキのスポンジの素を作りながらリリーが語り始めた。
「やっぱり手作りがうれしいって。それでシリウスの名前が出てきたの。
『シリウスがこの前、暇を持て余して僕とピーターにチョコケーキを作ってくれたんだ。それがすっっごくおいしかったんだぁ〜』
って。あなたまたリーマスにチョコケーキ作ってあげたら?喜ぶわよ絶対」
―――そういえばそんなことがあったなぁ。でもこんなことになんなら作らなけりゃ良かった。
めんどくさいし、と少し後悔したが後の祭り。
「ほらよそ見すんじゃねぇよ、零すぞ」
あらら、と言ってリリーはお菓子作りに専念した。
さすがリリー。俺が教えたことを一つも漏らさずしっかりこなしていた。
「あたし、あなたがお菓子作れるなんて知らなかったわ」
俺はにやりと笑った。
「作る専門より食べる専門に見えるだろ?」
リリーはふふっ、と笑って肯定した。
「だってあなたの家からすると、とてもそういうことはしなさそうじゃない。メイドとかに任せちゃって」
「父や母は全部メイドに任せているけど、俺は従姉がお菓子作りが好きなもんだったからよく手伝ってたんだ。
だからこう、たまにお菓子作りの感?みたいのを忘れないために作るわけ」
「じゃあ紅茶を入れるのにもこだわるわけはその従姉のせい?」
「そう」
「他の女子が聞いたらなんて言うか…」
「…絶対言うなよ」
言ったら最後、一週間は女生徒と噂に付けまとわれるだろう。
「あなたも大変ね、シリウス」
2月14日、放課後談話室―――
「はい!ジェームズ、これあげる!」
ジェームズは目を丸くした。リリーがくれることは予想外だったらしい。
俺とリーマス、ピーターは二人を観察出来る位置に三人で見守っていた。
ジェームズはすぐ袋を開け、中のチョコケーキを食べ始めた。
「おいしいよ、リリー。料理も上手なんだね」
そう言ってジェームズは俺を見て―――ウインクした。
―――俺が教えたことバレてんじゃん。
「「おいしそう…」」
ジェームズが食べているチョコケーキを見て二人が呟いた。
そんな二人があまりにも間抜けで、また今度作ってやるよ、と言ったら、やったーっ!!と大喜びされた。
今日貰った、一人では到底食べきれそうもないチョコでも使って―――
さすがに最後の一文は余計だったか…( ̄_ ̄ ;)
06/02/11