―――どうしたんだろう…?

落とし穴の上が静かになった。すると、するするとロープが降りてきたでわないか!

ロープの先端には手紙がくくり付けてあった。急いでそれを解き、読んだ。

 

 

 

『自分の力で登れ』

 

 

 

たった一文、手紙にそう書いてあった。

この一文だけでもわかる―――これはジェームズの字だ。

やったあ!助かった!!と思ったが穴の深さに改めて愕然とする。

他に何か書いてないかと、もう一度ジェームズからの手紙を読んだ。

―――自分の、力で登れ―――

これだけしか書いてなかったが、この言葉が何を意図しているかがようやくわかった。

 

 

―――今まで僕は自分一人で助かったことはなかった。

いつも友達に助けられっぱなしだった。

そんな僕にジェームズはチャンスを与えてくれたのだ―――自力で助かるようにと。

僕は落とし穴の出口を睨みつけ、ロープを握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

だんだん近付く穴からの太陽の光が眩しい。

 

―――あとちょっと……あと3メートル、2、1…

 

すると、疲れ切った僕の上から手が差し伸べられた。僕は必死になってそれを掴んだ。

ずいぶん久しい地上で一番始めに耳に入ってきた言葉―――

「―――グリフィンドールに入ったと言っても所詮は『ブラック』だな!

  一年の中でそんなに闇の魔術を使えるのはお前だけだよっ!!」

 

―――違う。シリウスはそんなんじゃ…!

 

僕を引きずり上げてくれた友人―――ジェームズ・ポッターはその上級生に杖を向けて呪文を唱えた。

「インペディメンタ!」

上級生は2、3メートル吹っ飛ばされた。

ジェームズが上級生に杖を向けたことにも驚いたが、

何よりも一年生が上級生を難なく―――5メートル以上飛ばしたことに驚いた。

一年生でここまで出来るのはスネイプ、リリー、シリウスしかいなかった。

学校一の問題児とも言われる学校一の天才に挟まれたスリザリン生は怖けずき、

よくある捨て台詞を言って逃げ出した。

 

 

 

「度胸の無い奴ら…」

つまんなさそうにシリウスが呟き、僕に向き直った。

「大丈夫かピーター?」

さっきまでスリザリン生を脅していた雰囲気とは違い、柔らかなオーラだった。

「うん。―――それより、シリウスは大丈夫なの…?」

「俺はこの通り外傷一つなしだぜ?」

「えーっと、そういうことじゃなくって…」

「ピーターは君がスリザリン生に

 『お前は所詮はブラックだ』って言われたことを気にしてるんだよ。ね、ピーター?」

ジェームズが僕に助け船を出した。

「う、うん」

あぁそのことか、とシリウスが思い出した。

「別に気にしてねぇよ。第一、俺が『ブラック』なのは本当のことだし…

 闇の魔術だってここに来る前から叩き込まれていたのも本当だし」

「でもシリウスは本当のグリフィンドール生だよっ!!卑怯なスリザリンとは違うよっ!!」

僕は躍起になってシリウスに訴えていた。

入学してからずっと怖かったけど、そんな僕は今、シリウスを庇っている。

「…どうやら君のファンは女生徒だけではなさそうだね」

僕の言葉に驚いて、目を丸くして口をぽかんと開けているシリウスにジェームズが笑いかけた。

「ありがとう、ピーター…」

綺麗に微笑んでシリウスが僕に礼を言った。僕はその笑顔に釘付けになってしまった。

「ヒドいじゃないかシリウスっ!!

  僕にはそーゆー風に笑ってくれないくせにっ!!僕たち唯一無二の親友だろっ!!?」

「別にお前に笑ったってどーもしないだろっ!!?

  それに悪戯してる時はいつも俺は笑ってると思うぞっ!!?」

「その笑いはシリウスお得意の皮肉笑いであって、

  ピーターにやったのはパトラッシュに出てくる天使のような笑顔だった!!!」

「なんだよパトラッシュって!?パラシュートかなんかか??」

「おっ前そんなのも知らないのかぁ〜?おっくれってるぅ〜」

「何だとぉ?」

さっきまで仲が良かった二人が対峙して睨み合った(だけどジェームズの方は楽しそうだ)。

「二人とも、そのへんで…」

「「一体誰のせいなんだ!」」

 

え、僕のせい……??

 

 

 

この二人を止められるのはダンブルドアでも無理じゃないかと感じた、一年の初秋の出来事だった。

 

 

 

 

 


ご苦労様ピーター (-_-)ノ

06/03/01