部屋の扉を開けると、

シリウスが荷造りをしていた。しかもかなり強引に突っ込んでいる。

当の本人も怒りまかせである―――無理もない。あの争いの後だもの。

 

「…この家、出て行くんだね。兄さん…」

 

僕の存在に気付いていなかったせいでシリウスはびくっとしてこちらを振り向いた。

「あぁレグルスか…もう俺はこの家には住んでらんねぇよ。我慢ならねぇ…」

そう答えてシリウスは荷造りを再開した。

 

―――その口の悪さはホグワーツに行ってからことさら悪くなった、と母は嘆いていたが

僕はそれはホグワーツに行ったからではなく、ジェームズ・ポッターのせいだと確信がある。

僕がホグワーツに入学した当時、シリウスは三年生だった。

僕はこの学校に来てから兄が全く家とは別人であることを目の当たりにした。

下等な奴等と戯れ、悪戯は毎日の日課になっている。

そして―――この家では見たことのない『笑顔』をしていた。

その笑顔の隣には必ずあのポッターがいた。

口の悪さもマナーの悪さも下等な遊びもあのポッターがすべてをシリウスに吹き込んだ。

そして兄は今、そのポッターの家に居候しようとしているのだ。

「兄さんが……グリフィンドールにさえ選ばれなければ…」

「ジェームズと出会うことはなかったってか?」

こういう時ばっかりこの人は勘が鋭い。

「その言葉は耳にタコだよ、レグルス。母からこの六年間何百回と聞かされたことか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…兄さん、一つお願いがあるんだ―――」

「…いくら弟でも、俺にこの家を出ていくなとは言わせねーぞ」

そう言って僕の顔を見、にやりと笑った。

「…まだ何も言ってないよ」

「わかるんだよ」

「…え?」

「わかるんだよ、お前が考えてること。何か知らねーけど。たぶん血が繋がってるからだろうけど…」

そう言って荷造りを終わらせ、僕に向き直って目線が同じになるように屈んだ。

「レグルス…」

「はい」

「例え、俺がこの家と縁を切っても、それでも俺達はあの母親から生まれた血の繋がった兄弟だ…

―――この家出が成功して、お前が俺を憎んで俺を兄だと思わなくなったとしても、俺はお前のこと弟だと思ってるよ」

「僕は兄さんを憎んだりしない。だって僕がこの家出を失敗させるから―――」

「残念だがそれは不可能に等しいな…さっき下で言い争った時、母は『出て行け!』って言ってたしな」

「それは言い争いのたんびに言われてたじゃないか!」

「それでも不可能だよ」

「どうして!?」

「この家出はなぁ…ジェームズが裏切らない限り確実に成功するからさ」

またそいつの名前を出すのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後のお願い―――」

「さっきも言っただろう?俺は「キスして」

シリウスは目を丸くしたが、ふと柔らかく微笑んだ。

「そうか、そうだよな…弟なのにキスもしたことなかったっけ…」

そう言って僕の額に掛かる前髪をシリウスは右手で上げ、羽のような柔かいキスをした。

「…じゃあな」

シリウスはトランクを引きずって扉に向かって行った。その兄の背に僕は叫んだ。

「僕はっ…シリウスが家出してこの家の人じゃなくなってもずっとシリウスのこと兄さんだと思ってるから…っ!」

シリウスは振り向いて泣きそうな顔で微笑んだ。

「嬉しいよ、レグルス…ありがとう」

シリウスはこの家を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

兄さんのいない家―――

 

 

 

 

 

僕はただひたすら泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 


この兄弟だけはあの家では普通に愛し合っていてほしい(T-T*)

変な意味じゃなくてね

06/03/14