最初に言ったのは、僕のほうだった。

「シリウス、」

「ぁん?」

「―――デートしよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はまさにデート日よりだった。

空は雲一つない快晴。溶け残った雪が、ホグズミードへと続く道の端に残っている。

―――そして僕は愛しき相棒と並んで歩いている。

 

『何お前、一人で買い物にも行けなくなっちまったのか?

 ……しょーがねぇなぁ〜…俺が一緒についてってやるよ』

 

デート、という言葉をシリウスは僕が冗談で言ったと思ったらしい。

そう思われたことに苛立ちを覚えたがそこはしっかりと自分をセーブした。

それにしても、だ。

今日はやたらシリウスを見つめる熱い視線が目に付く。しかも女子からだけではなく男子からも。

それもそのはず、今日のシリウスの私服姿は彼のモデル体型を引き立たせる黒のズボンに

ワイシャツのボタン二つ開けその上にジージャンを羽織るという、普段ではお目に掛かれない姿だからだ。

他のヤツがこんな格好してもここまで注目を集めることはない。あくまでも『シリウス・ブラック』だからだ。

本人はそんな視線に全くと言っていいほど気にしていない(むしろ気付いていない)が、

僕にしたら気になって気になって腹が煮えくり返ってしまうくらいだ。

―――なんとかこの視線から逃れなくては…!

僕は辺りを見回したがこの辺りには裏道らしきものはなかった。

「―――おい!ジェームズっ!」

ちょっとイラつきながらシリウスが僕を呼んでいた。

「は、はぃぃっ!」

思考に嵌まっていたので声が裏返った。

「お前何その返事…」

くくっ、とシリウスが笑った。僕は顔が熱くなるのを感じた。

さっきまで笑っていたシリウスが怒った顔つきになっていた。

「―――お前、俺をほっといて一人の世界に沈んで楽しいか?」

「…え?」

―――あぁ…そういえば。

僕はホグズミードに着て以来、ずっとシリウスと話さないで勝手に一人で物思いに耽ってた。

「―――自分から誘っといてそれはないんじゃねぇか?…別に俺はお前と来なくたってよかったんだし」

一通り自分の不満をぶつけ、シリウスはずんずん先に進んで行った。

―――これはマズい。

僕は先に進もうとするシリウスの腕を掴んだ。痛っ、とシリウスが呻いたがそこは無視した。

「何すん「ごめん」

驚いたシリウスは目を丸くした。

そして絹糸のような髪をぐしゃぐしゃと掻き、わかりゃいいんだよ、と照れながら言った。

僕はにっこり微笑んだ。

「…それじゃ、仲直りをしたところでこれからどこ行く?」

「なんか俺喉乾いた。バタービール飲まね?」

「仰せのままに、お姫様」

召使いがお姫様にするようなお辞儀をし、にやりと笑った。

シリウスはふん、と鼻を鳴らしたが、今度は自分一人で先へとは進まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、いらっしゃい二人とも!今日もきっと来てくれると思って、ちゃんといつもの席を空けといたわよ」

「「ありがとう、マダム」」

マダム・ロスメルタはふふっ、と笑い「本当に双子のようね」と言って

僕らの特等席―――カウンターの隅へと案内した。

僕らは席に着き、バタービールを注文した。

「今日、お前の奢りね」

当たり前のようにシリウスが言ってきた。

「はぁ?なんでまた」

「自分から誘っといたくせに俺をほっといたための謝罪の品」

―――こいつ、まだ根に持ってるのね…。

「で、なんで俺を誘ったわけ?何も買わないのか?」

まぁ俺はジェームズに奢ってもらうからカンケーねぇけど、とシリウスが言った。

「だから最初に言ったじゃないか。デートだって」

デートに理由もなにもないだろう?

ぽかっ、とシリウスが僕の頭を叩いた。顔は呆れている。

「あのなぁジェームズ…俺はお前の愛しのエバンスじゃないの。

 俺を使ってデートの予行練習なんてやるだけムダ」

―――あぁ神様、僕の思いはいつ彼に届くのでしょう…。

僕はあまりにも気付こうとしないシリウスに苛立ってきた。

「じゃあ、これだったらデートしてるって言えるよね…」

と言って隣りに座っているシリウスの右頬にキスをした。

 

「あら、まあ」

 

返ってきた反応は期待していた声の持ち主のではなかった。

僕たちの正面には二つバタービールのジョッキを持ったマダム・ロスメルタが目を丸くして立っていた。

どうやらマダムの反応のお陰で、賑やかだった店内は水を打ったように静かになったようだ。

僕は内心ほくそ笑んだ。

―――これでシリウスはあんなアイドルを見るような視線で見られることはなくなるだろう。

にんまり笑っていた僕の横っ面に右ストレートが命中した。その反動で身体は宙に浮き、背中から床へと落ちた。

その後から左頬の痛みと背中の痛みを感じた。

「―――ってぇ…」

身体を起こそうとしたら右肩を蹴られ、また床に背中を打ち付けた。

「痛いなぁ、シリウス…僕はグリフィンドール期待の星なのに…」

にっこりシリウスに笑いかけた。

「―――っもう一生お前の顔なんか見たくねぇっ!そのままそこで寝転んでろ変態ジェームズ!!」

言葉とは裏腹にシリウスの顔は辛そうな、今にも泣きそうな顔をしていた。

そして彼は荒々しくドアまで歩いて行き三本の箒を後にした。

 

 

「…なんで彼を無理やり自分の懐に入れようとするのよ……」

 

 

耳にそんな音が入ってきたとは知らず、僕はたださっきのシリウスの表情で頭が一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――なんでそんな泣きそうな顔をするの……?

 

 

 

 

 

 

 

 


ジェーはシリウスを独り占めしたい年頃なんです。

ついでにこの時は3年ぐらいっちゅーことで(* ̄▽ ̄*)

「なんで彼を〜」の部分は誰が言ったのでしょ〜♪

06/04/13