「ありがとう」

彼は恥ずかしそうに、はにかんで言った。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

ホグワーツに入学して一ヶ月。だいたい自分と同じ寮の奴の顔と名前が一致し始めた頃。

だけど今の俺には親しい友人はまだ二人。

一人は、運命なのか必然なのか何なのかはわからないが、

俺は悪戯の天才、ジェームズ・ポッターといつの間にか(半ば強引だった気もする)と仲良くなっていた。

そしてもう一人はいつもジェームズにくっついているピーター。俺はジェームズのお陰で彼と自然と仲良くなれた。

―――ピーターは相変わらず俺と話すたんびにビクビクしているけど。

俺に友達が少ない理由は、入学前からスリザリンに入ると決まっているブラック家の長男が

組分け帽子の悪戯か、グリフィンドールに入ったためであった。

 

しかし、だ。

 

そんなお家柄がスリザリンな俺と一二を争うくらい友達の少ないヤツがこの寮にもう一人いる。

―――リーマス・ルーピンだ。

彼は特に友達を必要としてないのか、常に一人でいた。

自分も一人でいることが好きなのでそのことに関しては同情するが、

彼の場合一人でいると言うよりはむしろ人を避けているようだった。

俺は彼と話してみたかったが、自分は『あの』ブラック出身であるため

残念ながら自分から声を掛けるということに多大な努力が必要であった。

 

 

 

 

 

 

そんなある日。教室に移動するため、例の動く階段を通らなければならなかった。

そしてそこにはあのリーマス・ルーピンがいた。

いつも顔色が優れているほうではなかったが、今日はいつも以上に青かった。

 

―――あいつ大丈夫かな…。

 

もしコイツがジェームズだったら「大丈夫か」とか「顔色悪いぞ」とか声を掛けられる。

だがコイツはルーピンだ。もしコイツがブラック家の俺に話しかけられるのが嫌だったら?

俺が話しかけて、今以上に顔色を悪くし、あの恐怖や憎悪が入り交じった目で睨まれたら?

 

そう思うと言葉が出なかった。

 

 

 

 

「リーマス、大丈夫?顔色悪いよ?」

考えにはまっている俺をよそにジェームズがルーピンに声を掛けた。

彼は身体を強張らせ声がしたほうに振り返った―――あのいつもの作り物のような笑顔で。

「うん。全然平気だよ」

嘘ばっかり。足元フラフラじゃないか。

ジェームズを振り切ってリーマスは階段を登った。するとその時、階段が動いた。

「ルーピン!」

案の定彼は階段から落ちた。俺は落ちてくる彼を受け止めた。

しかし。

 

「いっ!」

 

リーマスを受け止めるために走った勢いで頭を打ってその場で意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが頬に当たる。それがうっとおしくて手で払ったがそれが逆に掴まれた。

「おーいシリウスぅー起きてるかぁー」

この間の抜けた声の持ち主は、

 

「ジェー…ムズ」

 

重い瞼を開けるとそこには三人の心配している顔が覗き込んでいた。そして一気に覚醒される頭。

「ここは?」

「医務室」

ジェームが即答した。

「…お前ら授業は?」

「階段から落ちた人を助けた友達をほっといて授業なんていかないよ」

ほら、とジェームズがルーピンを小突いた。

「ありがとう」

彼は恥ずかしそうに、はにかんで言った。

 

 

 

 

 


ジェシリル?

06/05/01