目を開けるとヤツがいた。

彼は傘を僕の上にさしたまま逆さまに僕の顔を覗いていた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

季節は秋。今日は対スリザリン戦のクィディッチの試合だというのに空は分厚い灰色の雲に覆われていた。

七人の選手がロッカールームから出、競技場へ向かおうとした時グリフィンドール生がゲートの前で迎えてくれた。

「がんばってね!」とか「スリザリンなんかコテンパンにしてこいっ!」など色々な声援が僕達選手を励ました。

しかし僕の目当ては最初からただ一人。

僕はその彼の目の前までくると、

「がんばれよ」

そう言って拳をつくり僕の正面に彼はそれを突き出した。

「あぁ」

にやりと笑い、僕も拳をつくって彼のそれにこつん、と当てた。

シリウスは見惚れるほど綺麗に笑った。

 

 

 

―――今日の試合は必ず成功させると心の中で彼に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨がユニホォームに染み込んでずっしりと重くなっていた。あれからどれぐらいここにいるんだろう……。

 

 

最初はグリフィンドールが優位だった。が、途中から降り出した雨のせいで自分の眼鏡は不利になった。

―――まさか、スリザリンのシーカーに先にスニッチを取られてしまうとは…。

今まで負けたことなんてなかった。自分が出場した試合は必ず勝利した。それなのに何故、今日に限って。

 

 

スリザリンに負けたことはかなりの屈辱だった。

今まで積上げてきた自信、プライドがガラガラと崩れていくようだった。

そして、何よりも―――

 

 

彼の、シリウスのあの綺麗な笑顔が頭に甦る。

 

 

 

 

 

僕は今いる場所、クィディッチ競技場の真ん中で大の字に寝転び、相変わらず降る雨空を見上げた。

眼鏡は試合中にどっかへ落としてなくしたままなので今はダイレクトに目に入る。

それがうっとおしくて目を閉じ、他の器官を研ぎ澄ました。

顔には雨が当たり寝転んだ芝生からは草と雨の匂いがし、雨がさあぁと降る音しか聞こえない

 

 

はずだった。

 

 

誰かが濡れた草を踏む音がし、雨の音が聞こえてるのに自分の顔の上だけ雨が止んだようだった。

草と雨の匂いの他に石鹸の匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けるとヤツがいた。

彼は傘を僕の上にさしたまま逆さまに僕の顔を覗いていた。

今は眼鏡がないのでぼんやりとしか見えないが、ソイツは間違えなくシリウスだった。

彼が来ていたことなど草を踏み締める音を聞いてからわかっていたが、

彼が側に来るまで敢えて目は閉じたままにしていた。

「……お前、風邪引くぞ…?」

数秒無言で見つめ合っていたがまた僕は目を閉じた。

相変わらず雨は降る。

「…そう落ち込むなよ…誰も全部の試合に勝てなんて言ってないだろ…?

 ここまで無敗でこれたことのほうが凄いんだから…」

 

 

「でも、負けた」

俄かに声が震えた。雨に濡れて冷えきっているのだろうと思うことにした。

「負けたんだ。スリザリンに…」

 

 

「勝ち負けとかそうゆう問題じゃない」

「じゃあどうゆう問題なのさ」

僕は冷たく言い放って目を開けると、シリウスの冷静な顔が視界に入った。

そんな彼の様子に苛立ちを覚えた。

「いいよね、観客席で優雅に応援するのは…選手に『がんばれ』とだけ言って責任を押しつけられるし…

―――ブラッジャーに頭をかち割られる心配もないし?」

思ってもないことが口から出てきた。よくもこう嫌味が言えるもんだ、と頭の片隅で思った。

「お前がそう考えてたなんて知らなかった…」

シリウスの眉がハの字になった。その様子があんまりにも可哀想で。

さすがにこんな顔をされたら苛立ちなんか吹っ飛び、いつもの冷静さが取り戻せた。

「あぁ…ゴメンよ、シリウス…今のは全部嘘だから…ねぇ?だからそんな顔しないで…」

「じゃあ、ジェームズだって…」

シリウスは辛そうな顔で僕を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、今にも泣きそうな顔、するな」

「え―――」

 

 

 

 

 

 

―――あぁ…僕は泣きたかったのか……。

 

冷たい雨ではない、生暖かいものが目尻から溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――…初めて負けた」

「うん」

「すっげぇ悔しい」

「うん」

「だけど、君の声援に答えられなかったことのほうが悔しいんだ」

「……………」

「ねぇ、シリウス…」

「ん?」

「ごめん。負けちゃった」

「もういいよ…俺の応援でジェームズが頑張ってくれただけで嬉しいよ」

そう言って僕の目から溢れた涙を彼は親指で優しく拭ってくれた。

「もう戻ろう…お前、ホントに風邪引くぞ」

僕を立たせるために彼は僕に手を差し延べた。

僕は悪戯心が芽生え、その手を自分に引き寄せて彼の唇にキスをした。

「ご馳走さま♪」

シリウスは何がなんだかわからず放心状態だったが、脳が働き始めたのと同時に顔が赤くなっていった。

「〜〜〜///!!ジェームズっっ!!」

彼が叫んだのと同時に僕は校門まで走っていった。シリウスも傘を片手に僕の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

―――たまに負けるのもイイかもね…。

  まぁ、そんなことはもう二度としないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の年では一点も取らせないでスリザリンを負かしてやった。


結構楽しく書いてました(o⌒−⌒o)

いつかは書きたかったんですよ、クィディッチでジェーが負ける話。

その次の日はジェーは風引いて寝込んでシリウスのお世話になっちゃうんですよ結局(笑)。

06/05/07