戸棚をあけて目当てのものを取り出す。
「―――あった」
この家、ブラック家に昔置いていった代物が見つかった。
「懐かしいな…」
それはジェームズが昔、クリスマスプレゼントに贈ってくれた両面鏡だった。
「何だって!?君は実家に帰らないのか!?」
ジェームズが予想以上に声を張り上げたので、
帰省のために玄関ホールに集まっていた生徒は静まり返ってこちらを窺っていた。
「バカ!声がでけぇんだよっ!」
と言って彼の頭を叩いた。
「すぐ暴力を振るう…」
「今のはお前が悪い。第一、俺があの家に帰ろうが帰らまいがお前には関係ねぇことだろ」
「関係大有りだよ。君は一人でホグワーツに残って寂しくないのかい?」
「リーマスがいる」
「新しい悪戯だって、授業がない分思いっきり考えられるよ?」
「確かにそうだけど…」
「僕、クリスマス終わったらすぐ戻ってくるから」
「―――…お前なぁ〜…」
はあぁ、と溜め息をついた。
「…お前の両親は、少なくとも俺の両親よりお前の帰りを楽しみにしてるんだぞ。
…それなのにたった二、三日で帰ったりしたら悲しむぞ?」
ジェームズはしばらく膨れっ面をしていたが何かを思い付いたらしく急ににやりと笑った。
「…気味悪いぞ。急に笑って」
「ふふっ。何でもないよ。じゃあ僕、もう行くね!」
その時はその悪戯っ子の笑みの意味が何なのかは理解できなかった。
しかし、それはクリスマスの日になって解明されるのであった。
その時までクリスマスプレゼントなんかもらったことはなかった。
本の知識だけでその存在を知っていた。まさか本当に朝起きたらプレゼントがあるなんて予想もしなかった。
一番気になるプレゼントはジェームズからのだった。何か平たく四角いものだった。
―――まさかフレーム入り家族写真を送りつけたわけないよな…。
そんな考えが過ぎったが開けないことには始まらないので取りあえず包装紙を丁寧に剥した。
そこからは一枚の鏡が出てきた。見た目は至って普通の鏡。
しかし、あのジェームズが普通のものを寄越すはずはない。
何かメモはないかと鏡をひっくり返すと―――あった。
あきらかにそれはジェームズが書いたメモだった。
『鏡に向かって僕の名前を呼んでみて』
他の文はないかと探したが残念ながらこの一文だけだった。
―――なんで俺が鏡に向かってお前の名前を呼ばなきゃならないんだ…っ!
自分が鏡に向かって人の名前を呼んでいる姿を想像した。第三者が見ていたらさも滑稽に見えるだろう。
鏡を床に置き、胡座をかき腕組みをして鏡を睨み付けた。
―――いったいなんの仕掛けがあるんだ…?
暫く思考に嵌っていた俺は背後に人が近づいてきていることなど気付きもしなかった。
「シリウス?」
「のわぁっ!!?」
「ぅわっ!!」
扉の近くに驚いて俺を見ているリーマスがいた。
「なっ、なんでリーマスが驚いてんの?」
「君の驚いた声にビックリしたのさ」
互いに数秒無言で見つめ合い、同時に噴出した。
「シリウス、そろそろ朝食取りに行かない?」
一通り笑い終わった後、リーマスが話の続きをした。
「そうだな」
そう言ってリーマスの隣りを歩いて大広間へと向かった。
二人で朝からお腹いっぱい食べ、リーマスは課題をするために図書館へと向かった。
俺は自室へ戻ることにし、誰もいない寮へと足を向けた。
部屋の扉を開けると、部屋の中からは居るはずもないジェームズの声が聞こえた。
「シリウスっ!いないのか!?お前、僕からのプレゼント開けるの忘れてるってことないよねっ!?」
「…ジェームズ?」
「―――!シリウス!!さっきから読んでたのに…早くこっち来てよ!」
「こっちってどっちだよ」
どこにジェームズがいるのかわからず辺りを見回した。
奴は透明マントという便利な代物を持っているからだ。
「あぁっ!もうっ!鏡だよ鏡!!」
そう言われて初めて素直にジェームズが贈ってくれた鏡を覗き込んだ。
そこには自分の姿ではなくジェームズの拗ねた顔が映し出されていた。
「…なんで鏡に向かって僕の名前を呼ばなかったのさ」
「お前が寄越した物には用心しているのさ。何が起きるかわかんねぇだろ?
…それにしてもどうゆう仕掛けなんだコレ?ホント、ジェームズっておもしろいもん持ってるよなぁ」
「ホグワーツに入学前、家の物置を漁ってたら出てきたのさ。
入学する時にはこれの対を使う人はいなかったけど、今は君がいるだろう?
悪戯して運悪くフィルチに捕まって、別々の場所で処罰を受けた時便利だと思ってね。
いつでもどこでも君と話せるんだ…僕は今日という日を楽しみにしていたのに君ときたら
『お前が寄越した物には用心しているのさ。何が起きるかわかんねぇだろ?』ときた」
ふん、と彼は顔を逸らした。俺がこのプレゼントを受け取ってもらう日を相当楽しみにしていたらしい。
「悪かった、ゴメン」
ここは素直に謝った。どう考えても自分が悪い。
はぁ、とわざとらしい溜め息を吐きジェームズはにやりと笑った。
「もし僕がそこにいたら悪かったお礼のキスを頼めたのになぁ」
「思い上がるなっ!」
ちぇ、と彼は口を尖らせた。そんな彼と鏡越しで笑いあった。
「さて早くハリーにこれを渡さなければ…」
そこら辺にあった包装紙でそれを包んだ。
絶対書きたかった両面鏡のお話。
なんて素晴らしい代物なんだローリング女史!
06/05/27