大変だった。

僕とシリウスが仕掛けた悪戯がフィルチにバレて逃げてたところに、

図書館帰りのリーマスとピーターが表れ二人で逃げているのが四人増え、

フィルチから逃げるのが苦しくなってきたところにちょうどここの隠し部屋を見つけ、四人で飛び込んだ。

四人はドアにへばりつき、フィルチが通り過ぎたのを確認して、ひとまず一同はほっとした。

 

「こんな隠し部屋があったなんて知らなかったなぁ」

「ジェームズでも知らない部屋だったんだね」

「だけどなかなか良さそうな部屋のようだな」

シリウスがにやりと笑った。

確かにここは僕らにとって『良さそうな部屋』だった。

部屋の大半は今使われてない椅子や机だがその他にも何やら怪しげなものが沢山あった。

しばらく四人はこの部屋を物色して時間を潰すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、こっち来て!すごいものがあるんだ!」

ピーターが興奮して僕らを呼び寄せた。

僕らがそこへ行くと、彼はこの部屋の床から天井まである鏡にへばり付いていた。

「ほら見て…この鏡って僕の未来の姿を表すのかなぁ…?

 僕、首席でクィディッチのキャプテンをやってる…顔もハンサムだ…背だって高い…」

ピーターは鏡を見てうっとりとしていた。

「それ、『みぞの鏡』じゃない?」

リーマスがぼそりと呟いた。

「女の子の間で噂になってたよ」

「君はなんでそう、女の子がしていた噂に詳しいんだ?」

シリウスは顔をしかめながらリーマスに尋ねた。

「シリウスほどじゃないと思うけど」

「ねぇ、『みぞの鏡』って何?」

ピーターが間に入ってきた。

「その人の『望み』を映すのさ」

僕でも知っている話だ。この学校に来る前に父から聞いたことがあった。

なぁんだ、とピーターはがっかりとした。

「君達には鏡に何が映る?」

無遠慮だとはわかっていたが好奇心に負けて聞いてみた。

「僕は言わずもがな、君達と満月の夜を学校探検してるよ」

リーマスが淡々と述べた。

「シリウスは…」

何が映った、と言いかけて言葉が詰まった―――シリウスが泣いていた。

彼は静かに涙を流していた。

目が驚きで少し見開かれ、その目は涙で濡れそぼり月明かりでキラキラて光っていた。

そのひと雫が白い頬を伝っていた。

 

 

―――綺麗だ。

 

 

そう考えてかぶりを振った。

―――シリウスが泣いてるのに何考えてるんだ僕は…!

 

 

「シリウス、大丈夫?どうしたんだ?」

シリウスの身体が震えた。

「おい!ホントに大丈夫か!?」

僕は震えるシリウスの両肩を掴んだ。しかし彼はそれを振り払い自分から僕の両腕を掴んだ。

「…まさか……そんな、俺が……」

シリウスの爪が僕の腕に食い込んだ。

「…何が映ったの、シリウス?」

 

―――よく考えたらおかしいじゃないか。

人の『望み』を叶える鏡なのに何故、彼はこんなにも震えて涙を流すのか。

理由は一つ。たぶん―――

 

「……俺が…笑ってた……父と母に抱き抱えられて……絵に描いたような幸せな家族だった…」

シリウスは今にも消え入りそうな声で細々と続けた。

「…馬鹿だよな……そんなこと絶対あるわけないのに…」

もうシリウスは泣いていなかった。ただただ、その声は自嘲的だった。

リーマスもピーターも無言でシリウスを見つめていた。

 

 

「もう帰ろう、シリウス」

リーマスが耐え切れなく、そう言った。そんな悲しい姿のシリウスを誰も見ていられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、薬草学の温室へ移動してる時、

リーマスが前を歩くシリウスやピーターに聞こえないように僕に尋ねてきた。

「…ところで、君はあの鏡に何が映ったの?」

人に聞いといて自分だけ言わないつもり?と責められた。

「…年おえた四人のじーさんが一緒にアフタヌーンティーを楽しんでたよ」

ふーん、とリーマスは期待外れだったのか、つまんなさそうに相槌をうった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど本当のところ、四人のよぼよぼのじーさんじゃなくて、

幸せそうに笑ってこちらに大きく手を振っている、眩いばかりの相棒の姿が映っていた。

 


自分で読んでて恥ずかしい(:;:Д:;:)

いや、でも書きたかったんですよ、みぞの鏡話。

06/06/03