「いいよ」
そう言ったらコイツは目を大きく見開いた。
「……後悔しても知らないよ」
―――後悔はしないと思う。特に理由はないけど、ただ、コイツとなら後悔はしないと思った。
* * *
ある日曜日の昼下がり。外は快晴。
なにもすることなしに俺とジェームズは外をブラブラと手持ち無沙汰に歩いていた。
結局、いつも四人で過ごす湖の端にあるブナの木陰に来て
俺は大の字にごろりと寝っ転がり、ジェームズは俺の横にあぐらをかいた。
風がそよそよと吹いて心地よい。
「シリウス―――」
うとうとしているとジェームズが声をかけてきた。
「…んー?」
「お前、キスしたことある?」
俺の眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「なんでいきなりそーゆー話になんだよっ!!?」
俺はガバッと起き上がって叫んだ。
「あぁ良かった。ないんだ。」
そんなにムキになっちゃって、と笑われた。
「じゃあお前はあんのかよっ!!」
その言い種にムッとして聞き返した。ジェームズはにやりと笑って、もしあったらどーする?と逆に返された。
「……お前性格悪すぎ」
ジェームズはケラケラ笑って、僕もないよ、と言われた。
「…ということはだ、僕たちが今キスするとしたら、
お互い記念すべきファーストキスになる「なんでお前とすることになんだよっ!!」
「ははっ!冗談冗談」
―――お前が言うと冗談に聞こえないから怖いよな。
二度目の静寂。今度こそ眠りの世界に落ちようと瞼を閉じかけた瞬間、
「シリウス…
…キスしようか」
「…お前、まだ言ってんの?」
冗談はもういいよ。せっかく心地よく眠れそうだったのに。
また俺が瞼を閉じようとしてもジェームズは続けた。
「今度は冗談じゃなくて、ホントに。」
声からこのことが冗談ではないことがわかった。―――ふと脳をよぎる疑問。
「…お前、俺なんかでいいの?」
「僕は君としたいんだ―――君こそ、僕なんかでいいの?」
自然と言葉が自分の口からつむがれていた。
「いいよ」
そう言ったらコイツは目を大きく見開いた。
「……後悔しても知らないよ」
―――後悔はしないと思う。なぜだか理由はわからないけど、ただ、コイツとなら後悔はしないと思った。
ジェームズは眼鏡をはずし、俺を見つめた。
―――改まってするとなんか逆に恥ずかしいんだな。
そんな呑気なことを考えているうちにジェームズの顔が近付いてきた。
二人の距離がだんだん短くなっていく。
あのキラキラとしたヘーゼルの瞳がしだいに閉じていくときに自分も無意識に瞼を閉じていた。
そして俺達の距離はゼロとなる―――
鹿犬初☆キッス
06/01/21