「例えばさ……」 

そう言ってそいつはひやりと笑う。

「僕が君よりも早く死んだとする…」

 

 

* * *

 

 

 

談話室もまばらとなってきた頃、いつも座っている暖炉の真ん前の肘掛け椅子に身体を沈めて、

パチパチと音をたてる火をうとうとしながら眺めていた。

唯一無二の親友で相棒のジェームズは隣で本の世界に没頭していた。

「ジェームズぅー何読んでんの?」

あんまりに退屈だったのでジェームズに話を振った。

ふふっ、とジェームズが微笑んだ。

「リリーのお薦めでね、日本の純愛小説さ。

 僕が、何かいい本はないかって聞いたらこれを貸してくれたんだ」

「どんな話?」

「主人公の彼女が若くして白血病で亡くなってしまうんだ……」

「……悲恋?」

「まぁ、悲恋だね」

「ふーん……でも俺、純愛小説ってなんかヤダ」

ジェームズがにやりと笑った。

「…じゃあ君は過激派?」

「バーカ。そうゆう意味じゃねぇって。ただ現実味がないのがヤなの。

最近の話って白血病がなんとか、っての多いけどそんな軽々しく話題にしちゃっていいのか?」

ふーむ…、とジェームズが考え込んだ。

「…それに物語ってゆーものはハッピーエンドだろ?

 最後になるにつれてどんどん暗い雰囲気になってくのもイヤ」

「…じゃあシリウス」

今まで黙って聞いていたジェームズが口を開いた。

「これから言うことが全部ありえたとする…」

「くだらない話だったら御免だぜ」

「例えばさ……」 

そう言ってそいつはひやりと笑う。

「僕が君よりも早く死んだとする…」

 

 

 

ふかふかベッドに入っいた人も宿題に没頭していた人もチェスをしていた人も

好きな男の子は誰だと探索していた人もある一ヶ所を凝視した。

たった今その場所でとてつもない大きな音がしたからであった。

その音の発信源には学校一有名なコンビ―――ジェームズとシリウスがいたが、何やら様子がおかしい。

ジェームズは床に突っ伏していてシリウスは息を上げて仁王立ちしていた。

どうやらあの大きな音とはシリウスがジェームズを殴った音であるようだった。

その証拠に―――ジェームズの左頬が赤く腫れていた。

「二度とそんなこと言ってみろ!そん時はお前の口を『永久粘着呪文』で塞いでやるからなっ!!」

と、怒鳴ってドカドカと自室へ戻っていった。

 

―――なんだ、またケンカかよ…

 

やれやれと周りの寮生は溜め息をつき時計を見、もう寝る時間だと引き上げるのであった。

―――ただ一人残して。

 

 

 

「っつー…」

左頬に手をあてながらジェームズが起き上がった。

「手加減無しかよ…」

―――まぁ、無理もないか。

 

 

 

 

 


某純愛小説がポタの世界に出るとは…!

06/01/21