「じゃ、おやすみ〜」

「おやすみ、リーマ『バタンっっ!!!』

おやすみの挨拶を交わしていたリーマスとピーターは勢いよく開け放たれた扉に釘づけになった。

―――シリウスが怒り任せに開けたのである。

「シリウス、ジェームズとケンカしたのはいいけど、ドアに八つ当たりはしないほうがよさそうだよ」

前も壊しちゃったしさ。

「あぁ…ワリぃ…」

シリウスの機嫌は地を這っていた。

「さあ、ジェームズなんかほっといて早く寝よう、シリウス」

リーマスの言うがままにシリウスはパジャマに着替えて床に就いた。

それから三人はぐっすりと眠りの世界に入っていった。

―――ただ一人を残して。

 

 

 

その一時間後、一人取り残されたジェームズ・ポッターは三人が眠る寝室へとやって来た。

「なんだい、みんな寝てんのかよ!」

白状者め!と独り言を漏らして自分もパジャマに着替えて愛用の眼鏡を外し、ベットの中に潜り込んだ。

とその時、誰かの啜り泣く声が聞こえてきた。

ジェームズは背筋が寒くなった。

―――幽霊…?否、そんなはずはない。じゃあ…―――

もう一度よく聞いてみると、その声はどうやら隣のベット―――シリウスのベットから聞こえてきた。

―――さては僕とケンカして泣いてんのか…?

かわいい奴、とか勝手に考えながらシリウスのベットに近付きそっとカーテンを開けた。

シリウスは確かに泣いていた―――が、それは夢にうなされているからであった。―――酷く苦しそうである。

「シリウス、おい起きろ。シリウス!」

堪り兼ねたジェームズはシリウスの身体を揺すった。

シリウスはビックリしたように目を開けた。

「…ジェ、ムズ……?」

シリウスの頬にはいくつもの涙の跡が残っていた。ジェームズはそんなシリウスを見てちくりと胸が痛んだ。

「大丈夫か…?お前、夢にうなされてたんだぞ」

「……」

シリウスは視線を下げてそのまま黙っていた。シリウスはそうとう怯えているようだった。

「何か悪い夢でもみたのかい?」

ジェームズは優しく聞いた。こくり、とシリウスはゆっくり頷いた。

「大丈夫。夢ってのは当たらないものだよ」

慰めるつもりの言葉だったのにシリウスはさらに怯えた。

「でも俺の夢は当たるんだっ…!

 …俺、普段はあんま夢はみないんだけど、たまにみるんだ…たいていその夢は正夢になるんだ…」

これにはジェームズは驚いた。

普段から占いだの迷信だのを信じない―――もっとも占い学を嫌うシリウスが言うのだからそうとう当たるのだろう。

「僕に話してみなよ」

ジェームズは咄嗟に言った。これ以上、シリウスの辛そうな顔を見たくなかったからである。

「僕に話してみたら、一人で抱え込むより楽になるんじゃないかな…

 ほら、夢を他人に話すと正夢にならないって言うじゃないか…」

シリウスはまだ辛そうな顔をしていた。

ジェームズはシリウスの目から溢れた涙を優しく指で拭い取ってやり、ベットに寝かしつけた。

「…さぁ、言ってごらん。シリウス」

ジェームズはシリウスに子守歌を歌う調子で言った。

シリウスは一瞬ためらったようだったが意を決してそれを言葉にした。

「……ジェームズが、殺される夢」

 

 

 

深夜二時を回った頃、シリウスはジェームズに見守られながらすやすやと寝息をたてて眠っていた。

―――今度はちゃんと幸せな夢をみているといいな。

…僕とこれから十年、二十年を共に笑い、泣き、喜びを分かち合える夢を……。

それにしても…人生とはなんと皮肉なものだろう。

―――僕が問いた質問にシリウスの夢。

 

 

「だから僕達は生きているのかもね…」

 

 

所詮人生という名のゲームの手駒にしか過ぎないのだから。

 

 

 

 

 


シリウスは予知夢を見れたらなぁ〜と。

06/01/28