君はホント、彼しか見てないよね───
僕はベッドで寝ていた。別に好きで寝てたんじゃない───風邪を引いたのだ。
滅多に風邪を引かない(人狼だから?)僕が、満月を過ぎたばかりで風邪に対する抵抗力が落ちたのか、
普段では決してもらわないものをもらってしまったのだった。
微熱だからいい、と医務室に行くのを嫌がった僕を僕の悪友たちは強制的に医務室へと連れて行った。
ピーターは補習、ジェームズはクィディッチの練習ということで今はシリウスが看病している。
シリウスは僕が寝ているベッドの脇で図書室で借りた読み掛けの本を読んでいた。
時々僕の様子を窺うようにちらりとこちらを見て本へと視線を戻していた。
「別に看病することなんてないのに…」
ぽつりと言葉を零した。静かな医務室でそれが響く。
「何言ってんだよ。どーせ俺はここにいても寮にいても本を読むから別にいいんだよ」
打切棒に彼は言う。照れ隠しが見え見えだ。
本を読んでいるため俯いていて顔がよく見えないが、少し長めの黒髪から出ている耳がピンク色に染まっていた。
彼が自分のことをどれだけ心配しているのかわかっているのに思ってしまう───じゃあ、ジェームズがいたら?
彼が君達だけの秘密の部屋で悪戯の計画をするって言ったら君はここにいる?
聞いてみたい。
けれど、そんなこと言わなくたってわかる。
僕は彼に気付かれないよう、小さく溜め息を吐いた。そして彼を盗み見る。
さらさらの黒髪のせいで見えにくいが、彼の綺麗な顔が見える。長い睫毛が白い頬に影をつくっていた。
シリウスは鬱陶しそうに前髪を掻き上げるが、そんな仕草も様になる。僕なんかがしたらただの気取り屋になってしまう。
僕は知らず知らずの内にほぅと感嘆の溜め息を吐いていた。
「どうかしたか?」
シリウスが小首を傾げて問うてきた。
「何でもないよ」
僕は上機嫌に返事をした。今シリウスを独占しているのは僕なんだという優越感に浸った。
そう、ジェームズじゃなく。
変なの、と零しシリウスが再度本に目をやった時だった。
バタンと力任せに扉を開かれた音に校医がその行動を注意する声。
それに構わずズカズカとやってきて周りのカーテンをバサリと開けたのはグリフィンドール・クィディッチキャプデンだった。
「シリウス!今すぐ競技場に来てくれ!」
「何かあったのか」
シリウスの表情が強張る。
「いや、そんな重大なことじゃないんだ。でも俺たちにとっちゃ重大だ」
シリウスの緊張した表情を読取りキャプテンが付け加える。
「スリザリンと練習試合しようとした時、ジェームズとお前の弟が決闘し始めてさぁ、
俺たちじゃ手が付けられねぇんだ。練習だってできない」
シリウスはキャプテンに気づかれないように安堵の溜め息を漏らし、微笑した。
しかしキャプテンに気付かれなくても僕は気付く。
あのキャプテンの剣幕顔からチームの誰かが───ジェームズが怪我をしたと思ったんだろう。
それに彼は安堵したのだった。
「わかった。今行くよ」
やれやれ、とんだ悪餓鬼どもだと遠くで優しく見守る母親のような顔をしていた。
あの二人マジで強過ぎるんだ、とボソボソ言いながらキャプテンは出ていった。
「というわけでリーマス、ちょっくら行ってくるわ」
すぐ戻るからと言って背を向けた彼のローブの袖を僕は無意識に掴んでいた。
「え?」
「あ…」
僕は袖を離した。名残惜しく残る僕の右手。
シリウスはきょとんとして僕を見ていたが、にっこり笑って僕の髪の毛をくしゃくしゃに掻き混ぜた。ちょっと痛いくらいに。
「すぐに、戻って、くる、からな、!」
「痛い!痛いってシリウス!」
僕は笑いながらシリウスの手を退けさせた。
「待ってろよ」
そう言って快活に笑って去っていった。
医務室に再び静寂が訪れる。先程とは全く違う、華やかさも暖かさもない無の世界。
(彼がいるといないとじゃ、こうも雰囲気が違うのか…。)
僕は真っ白な天井を見上げ今日何度目かの溜め息を吐く。
「恨むよ、ジェームズ…」
別に今日ぐらい、独り占めさせてくれたっていいじゃないか───
鹿犬←狼で書いたつもりだったんだけど、
あれ?ってかんじでなんかよくわかんなくなった(; ̄▽ ̄)/
06/11/25