ハロウィーンと狼少年

 

 

「ほら!あのチビの隣の奴だよ」

「ねぇ、どこどこ?」

「髪の毛くしゃくしゃな子の隣の・・・」

 

入学式の翌日、朝からこの言葉が生徒たちの間で噴出していた。

これに怒っていたのは当の本人ではなくジェームズだった。

「なんでみんなして僕をチビとか、くしゃくしゃ頭とかゆうんだろうね」

ジェームズがスクランブルエッグを取りながらシリウスを意味ありげににらんだ。

「ホントのことだろ」

噂の種であるシリウスは少しも気にしていなかった。平然と朝御飯を食べている。

そして僕は・・・

3人と少しでも離れようとして朝早く起きたはずなのだが、

大広間に行こうとした時にジェームズに捕まってしまってこうして4人で食べている。

 

ダメなのはわかってる

ずっとこんな時間がすごせることは絶対ない

いつかは僕が人狼だとバレてしまう

そんなとき、この3人はどんな反応をするだろうか・・・?

 

「リーマスは?」

「え?」

いきなりピーターに話しかけられて思考がストップした。

「お前、さっきからボケーっとしてるぞ」

シリウスが顔を覗きこんだ。

「あぁ・・・ちょっとね。で、僕がどうしたの、ピーター?」

「みんな、どの教科が楽しみか話してたんだぁ。僕はね、やっぱり飛行術の授業かなぁ」

「僕も同じ」

と、ジェームズ。

「俺も同じだな。」

シリウスがにやりと笑って言った。

「なんせ箒なんて外でのったことがねぇからな」

「僕は特にないなぁ」

話しを振られたくないわけではなく本当のことである。

第一、どんな授業があるのかすらわからない。

「あぁ、もうこんな時間だ。あと5分で授業が始るよ!

最初の授業は・・・マクゴナガルの変身術だ!」

ジェームズは僕達に無理やり早く食べるよう急がせた。

(ジェームズは、実を言うと早食いである)

「ほら!リーマスも早く食べて!」

「うっ・・・うん!」

僕は急いでウインナーを口の中に放り込んだ。

 

こうして僕は結局1日中3人と一緒にいた。

 

 

 

入学して1ヵ月半が過ぎた。

もうだいぶ学校生活に慣れてきた。

ジェームズとシリウスは学校中で有名になっていた。

理由は2つある。

1つは、毎日僕達がいつ見ても飽きない悪戯を学校中でするから。

(それも激しい音を出しながら)

もう1つは、2人ともずば抜けて頭がよかったから。

(悪戯の時に使う魔法は上級生ぐらいで習うものばかり)

そして僕は、相変わらず3人と一緒にいる。

今月、10月31日のハロウィーンの日が

初めて僕がホグワーツで「あの」姿になる日だった。

 

「今月はなにがあるかな!!?」

4人しかいない夜遅くの談話室でジェームズがテンションを上げて僕らに聞いた。

「ハロウィーン!!」

ピーターが嬉しそうに言った。

「ピンポーン!大正解ピーター!!ハロウィーンとは僕達のためにあるような日だ!!

なぜなら、お菓子を頂きまくる日でもあって悪戯をしまくる日でもある!」

「そこで俺とジェームズで考えた!」

シリウスが続けた。

「4人でおばけの格好をして悪戯しながらお菓子をもらいまくるってゆうのはどうだ!?」

「まぁ、悪戯してるのは日常茶飯事のことだけどね」

ジェームズがつっこんだ。

「僕は賛成!!」

ピーターが勢いよく手を上げた。

「そうこなくちゃ!リーマスは?」

「あー・・・えっとぉ・・・・・・」

3人は僕をじっと見た。

「僕・・・母さんが病気で・・・

ちょうど、お見舞いに行く日がハロウィーンと重なっちゃってるんだ・・・。

だからその計画には・・・参加できないや・・・」

 

初めてできた友達に初めて嘘をついた。

 

「大変だね、リーマス」

ピーターが心配そうに言った。

「4人で出来なきゃ意味ねぇーよ」

シリウスががっかりしながら言った。

「無理ゆうなよ、シリウス。リーマスだって大変なんだよ」

ジェームズがたしなめた。

 

 

そんなに僕のことを心配しないでよ・・・

 

胸が苦しくなる・・・

 

 

「ちゃんと親孝行してこいよ、リーマス!」

ジェームズが僕の肩をポンと叩いた。

「さ、もう寝るか皆の衆!!」

「うぃー」と言ってピーターとシリウスがのそのそと寝室へ向かって行った。

「どうしたんだい、リーマス。寝ないのかい?」

考え事をしていた僕にジェームズが声をかけた。

「ううん、なんでもない。先に寝室行ってていいよ」

僕はにこっと笑った。

いつもやる、誤魔化す時の偽りの笑い。

「ん、わかった。じゃ、おやすみぃ〜」

そうして談話室は僕1人となった。

 

この誤魔化し笑いもどこまで通用するか・・・

ジェームズは勘が鋭くて、観察力がいい

・・・あのジェームズが一生気付かないはずがない

僕の本当の姿を知ったジェームズはどんな反応をするかな?

 

最近こんなことばかり考えている自分が嫌になってきた。

「マダム・ポンフリーと打ち合わせしといたほうがいいなぁ・・・嘘がバレちゃう」

独り言を言って、僕は寝室へと向かった。

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫だから、心配しないで」

今日は10月31日、僕が待ちに待ってたハロウィーンの日。

だけど僕の親友の1人、リーマス・ルーピンは母親の病気でお見舞いに行くので

今日一日、一緒に過ごすことは出来ない。

少しでも一緒にいたかったので僕が、

「玄関まで送るよ」

と提案したところ、こう返された。

「本当に大丈夫だから、心配しないで」と。そう、すごい念を押して。

「母さんのためにマダム・ポンフリーが特別に薬を用意してくれたんで、

医務室に行かなくちゃいけないんだ・・・」

いつも青白い顔をしているリーマスがさらに青白い顔をしていた。

 

「リーマスは今頃家で何してるかなぁ」

ハロウィーンで手に入れたお菓子の山に埋もれながらピーターが言った。

「そりゃあ、家で家族3人、ささやかなハロウィーンパーティーをしてるんじゃない?」

僕はお菓子の数を数えながら言った。

「でも、もったいねぇなぁ」

かぼちゃジュースを持ってきたシリウスが言った。

「俺、ハロウィーンパーティー自体が初めてだったから4人で楽しみたかった」

「そんなこの世の終りみたいな言い方するなよ、シリウス」

ワリぃな、とシリウスが言ってお菓子の山にある、

大きなチョコレートケーキの箱を持ち上げた。

「あいつ、貧血気味みたいだったから、これ取っといてやるか」

「あ、その考えいいと思う!リーマス、チョコレート好きだからっ!」

さすがいつもリーマスとお菓子談義をしているピーターだ。

 

それにしても・・・

 

僕には、お見舞いに行くリーマスのほうが病気っぽく見えるような気がした。

 

 

僕はお菓子の山から目を離し、窓の外を見た。

空は雲1つない満月の夜である。

 

 

 

次の日の朝、朝食をとるために大広間へ行くとリーマスがいた。

顔に細かい引っかき傷がたくさんあった。

「おい、どうしたんだよその傷!」

会って早々、「おはよう」も言わずにシリウスが叫んだ。

リーマスがシリウスの声に驚いて振り返った。

「あぁ、これ・・・たいしたことないよ」

リーマスの顔は疲れきっていた。

僕は昨日のことを思い出した。

「あっ、そうだ!リーマス、君にいいものがあるんだ・・・」

僕はチョコレートケーキを呼び寄せた。

チョコレートケーキの箱が勢いよく大広間を通り抜けた。

僕は箱をキャッチしてリーマスに手渡した。

「はいっ!昨日の戦利品だよ」

リーマスが驚いて目を丸くした。

「ついでに中身はリーマスの好きなチョコレートケーキ!」

ピーターが得意顔で言った。

「お前、最近貧血っぽかったからな。ホントはレバーにしようとしたんだぜ」

にやりとしてシリウスが言った。

「何言ってんのさ!言いだしっぺはシリウスだろ!」

僕が混ぜ返した。

「うっせ・・・!!このっ、黙れ!!」

シリウスは顔を赤くして僕を黙らせようとした(だけどもう遅い)。

「ぷっ・・・あはっ、ははははは!!」

それまでずっと黙っていたリーマスが急に大笑いした。

僕はビックリしてリーマスを凝視した。

こんなに笑ってるところを見たのは初めてだった。

青白かった顔が一瞬にして花が開いたようだった。

そして、みんなおもしろくなって周りを気にせずにいつの間にか4人で大笑いしていた。

 

こうして笑えることがどれだけ大切か、わかるような気がする・・・

 

リーマスは一通り大笑いし、笑いすぎて涙がでていたのを袖で拭った。

僕には、なぜかそれは笑いすぎで泣いているようには見えなかった。

「あぁ・・・本当にありがとう」

リーマスは心から感謝している言い方だった。

「ホントに・・・」

「そんな言わなくてもわかったからっ!ほら、朝食食べっぞ!!」

シリウスが威勢良くリーマスの背中を叩いて言った。

僕はリーマスの隣に座った。

僕の目線はケーキの箱を持ったリーマスの手にいった。

 

 

昨日まで短かったはずの爪は長く伸び、間には血が残っていた。

 

 

 

 

 

 


ジェームズは確信に迫っていきます。

ついでにハロウィーンの日、3人は先生達からたんまりお菓子を

貰って悪戯は出来ませんでした(先生の前では)。