秘密

 

 

ハロウィーンの1ヵ月後のホグワーツ2度目の「あの日」が終わった。

日曜日だったので授業を抜けなくてすんだのが幸いだった。

今回のケガは特にひどく(二の腕と右頬を深く切っていた)、

僕は夕方まで医務室に入り浸っていた。

マダムポンフリーのお許しを得て、僕はグリフィンドール寮へ戻ろうとした時、

図書室からの帰りか、数冊分厚い本を手にしたジェームズと出くわした。

ジェームズは一瞬、驚いた顔をしたがすぐに「やぁ!」と返事をして駆け寄ってきた。

僕はこの時、なぜジェームズが僕の頬の傷のことについて

触れなかったのか気付くべきだった。

 

「お母さんの容体はどうだい?」

今回も、母親が病気のためお見舞いに行くと嘘をついていた。

「う〜ん・・・なかなか良くないなぁ・・・」

 

また嘘をついた。

嘘をつく回数は増えてるが、「嘘をつくのに慣れる」という日は一生こないと僕は思った。

 

 

僕はふっ、とジェームズが手にしていた本のタイトルに目がいった。

 

『複雑だけどやった分だけ価値がある魔法薬 〜どんな体質でもこれで直る〜』

ジェームズは癖毛を直したいのかぁ。そうには見えなかったけど。

『魔法生物による傷の手当て 〜ピクシーに噛まれた傷からドラゴンの火の火傷まで〜』

そういえばピーターがピクシー妖精に噛まれてたっけ。

でもピクシーに噛まれたぐらいなら包帯巻いとくだけで十分だったと思うけど。

残りの1冊に目がいった。

 

『人狼の始まり 〜なぜ噛まれたらその人物も人狼になるか〜』

僕は足を止めた。

それに気付いたジェームズが僕の目線を追って、

「あっ・・・!」と言って本のタイトルを隠した。

だけどもう遅い。

 

なんで僕は気付かなかったんだ・・・?

ジェームズは僕の右頬にある傷について何も言わなかった・・・!

 

 

「リーマス、僕はっ・・・!」

僕はジェームズを無視して、駆けだした。

ジェームズから、そして自分が人狼である真実から、逃げた。

日曜日の静まり返った校舎を無我夢中で走った。

息が苦しくなってきて、止まった。

走るのをやめた途端、涙がぼろぼろ出てきた。

胸が苦しかった。

走ったせいではなく、人狼だということがついにバレてしまった苦しさに。

近くの窓からは夕日が赤々と燃えているのが見える。

 

 

 

 

最近、リーマスが変だ。俺達から離れようとする。

俺が話しかけようとしたらさっさとどっかに行ってしまう。

ジェームズに聞いてみてもへらっと笑うだけで何も答えてくれない。

 

これはなんかあるな・・・

 

ジェームズにはいつも「この鈍(鈍感ってゆー意味らしい)!」って言われるけど

俺は時たま、勘が妙に働く時がある。

 

 

「おい、ジェームズ。ちょっと・・・」

呪文学が終わった後、誰もいないロータリーにジェームズを引っ張っていった。

「なんだい、いきなり。新しい悪戯でも考えついたのかい?」

ジェームズはからから笑いながら言った。

俺は辺りを再度見渡し、声を低くして聞いた。

「リーマスのことで、だ」

ジェームズは一瞬顔を強張らせたようだったが、すぐにもとに戻った。

「リーマスがどうかしたかい?」

「お前、なんか知ってんだろ」

ジェームズは俺を珍しい物でも見るかのように見つめた。

それから小さなため息を出して言った。

「なんで君はそう、強引なんだい・・・?」

「もうそんなこと始めっから知ってんだろ?」

「そうだったね」

ジェームズがにやりと笑って真顔になった。

「う〜ん・・・そうだねぇ・・・。

これはシリウスが名前を名乗りたくなかったのと同じように、

リーマスにとって隠しておきたいことなんだ。

それを頭に入れて僕の話しを聞けよ」

俺は頷いた。

 

俺が名乗りたくなかったのと同じ・・・?

 

そんな疑問を頭に浮かべて。

ジェームズはきっぱりと言った。

「リーマスが必死に隠そうとしている秘密を僕は知った。

そしてこの秘密はたぶん、生徒の中では僕しか知らない」

だけど、とジェームズは続けた。

「僕がリーマスの秘密を知ってしまったことにリーマスは気付いた。」

僕の不注意でね、とジェームズは自嘲的に笑いながら言った。

「それで、リーマスはジェームズがその秘密に気付いたことがわかって、

俺達と離れてる、ってゆーことか・・・?」

「その通り」

ジェームズが暗く言った。

「・・・じゃあ、俺はその秘密については深入りしちゃいけねぇってことか・・・」

「いや、君だったらいずれは気付く。

問題はリーマスが僕達がそれを知ることを

快く思うことが出来ることなんだけど・・・」

俺はジェームズ達に名前を知られる前の自分の気持ちを思い出した。

 

それはとても辛いものだ。

秘密を知ったらこいつらはどんな反応をするか、

このまま友達でいてくれるのか、

という、とりとめのない心に、深くのしかかる重圧。

そんな辛いことが初めての友達にあるという。

 

「リーマスが快くその秘密を言ってくれるようにするにはどうすればいいと思う?」

「そんなことがわかってたら君は初めから僕達に名乗っていただろ?」

俺とジェームズは顔を見合わせ、深い溜息をついた。

 

 

ある土曜日、俺は叔父からの手紙の返信のため、図書室に行った。

叔父は魔法生物について知りたがっていたので(叔父の趣味は幅広い)、

こと細かく(字がびっしりの羊皮紙3巻)を書いて梟で送った。

俺は手紙を書き終わった後、母親の見舞いに戻ってきた

リーマスの右頬の深そうな傷について思い出し、

治療魔法に関する本を引っ張り出した。

 

本を読むと過去がめぐってくる。

今回はリーマスの身の回りの変化について思い出した。

 

 

 

お見舞いに行くたびに傷をつくって帰ってくる・・・

しかもあんなに深い傷

顔が青白いのにお見舞いに行く日の前はさらに青かったな・・・

よくリーマスは爪を切ってる

深爪になる、ぎりぎりのところまで

 

俺ははっとした。

 

さっきまで、そのことについて手紙に書いていた

魔法生物の本のある章について思い出した。

 

おいおい、もしかしたら・・・

 

そして俺はハロウィーンの日を思い出そうとした。

 

思い出せ・・・

思い出すんだ・・・・・・・

 

思考回路をフルにした。

 

窓際にはお菓子の山がある。

窓からの月明かりでお菓子の山が大きな影をつくっていた。

窓の外は雲1つない満月の夜だった。

 

 

 

 

 


だいぶ展開が早くなっちゃいました(-_-;)。

最初なんてだいぶ(ってか、かなり)ゆったりスローペースだったのに・・・!

話しがこじ付けっぽいのは見ない方向で(笑。