鏡 〜犬ver.〜
昔から俺はこの家で変わり者扱いをされてきた。
俺の考え方は世間様でいけば普通の考え方だが。
別に俺はそんなことはどうでもいい。
ただ、この屋敷から出してくれればいいのだ。
外に出られるのはどっかのパーティーに行く時だけ。
あとは家。
箒で空を飛んだことはない(家の中は飛んだことがあるけど)。
何故、『あの人達』は俺を外に出さないのか。
理由は一つ。
「ブラック家の後取り息子が、こんなクソガキで人様の前に出せるか」だ。
いつも『あの人達』は『ブラック家』のことを考える。
俺が勉強すること、食べることなどなどは
ブラック家に相応しいようにガキの頃から叩きこまれた。
しかし誰が教えたのか、俺の口はかなり悪くなってしまっている。
(俺が思うに、下僕妖精と口喧嘩をするからだ)
そんなブラックな家にも違う思想を持つものがいる。
一人が俺の叔父。
一族では孤立している。
いつの間にか俺は叔父になつき、正しいこと、
外の世界のこと、マグルのことなんかを教えてくれた。
(だけど、そんなのはほんのちょっとしか知らない。
本を読みたいけどそれに関する本はこの家に一切ない)
もう一人は従姉のアンドロメダ。
アンは俺の大好きな従姉だ。
彼女はホグワーツのレイブンクローを卒業した。
彼女からはホグワーツのことを教えてくれた(これもほんのちょっとしか知らない)。
俺が知らないことだらけなのも外に出してくれないことと、
親愛なる母上がこの二人からの手紙をストップさせているからだ。
俺が前に使用人達の隙を見て逃げ出そうとした時、
運悪く母に見つかり、あえなく御用となった。
そしてその日から父から(無理やり)着けさせられた、
サファイアがついた銀のネックレスが今俺の首についている。
このネックレスをつけて脱走しようとしても外に出られない(魔法をかけているから)。
これで俺は完全に家につながれた。
監獄に閉じ込めたれた囚人だ。
だから髪を伸ばした。
母に逆らう唯一のことだと思ったから。
家の中で一番大きい鏡の前に来た。
随分長いこと自分の反抗の結晶を眺めていた。
前髪が顔を覆う。
後ろ髪が肩にとどくまでのびて、はっきりいって邪魔だ。
もう、反抗はやめて切ろう。
まだ手紙はきてないけど、ホグワーツ行きは決定だろう。
「少しくらいは見栄えをよくしとかねーとなぁ」
と、鏡の中の自分につぶやいた。
その日はまた屋敷下僕妖精とゴタゴタをしてしまって、結局切れなかった。
数日後、また鏡の前に来た。
そこで髪を切ることを思い出した。
早速、ハサミを取りに部屋にもどり再び鏡の前へ来た時、俺は目を疑った。
鏡は俺を映さずに、どこか違う家を映している。
その家はこの家とは違う、暖かいなにかが感じられる。
俺は鏡の中に入りたい衝動に駆られた。
鏡に手を触れた。いつも通り、冷たい鏡。
いつからだったんだろう。
この家が熱心的な純血主義な家になっていったのは。
この家が何もかも冷たくなっていったのは。
そこに住む人々の心が冷たくなっていったのは。
そして。
鏡に映る自分が無表情になっていったのは。
鏡の中はそんなことを思わせた。
「兄さん・・・?どうしたの?」
俺はビックリして振り返った。
弟のレグルスが不安そうに俺の顔を窺っている。
「いや・・・なんでもねぇよ」
と、いつも通りの口の悪さで返したが、内心すごくドキドキしていた。
ふっ、と鏡を振り返るともうそこにはあの家はなかった。
そんな不思議なことがあった次の日、ホグワーツからの手紙が届いた。
第三話のシリウス君です。
彼はここではかなり口が悪いです。
原作ではありえないくらいの口の悪さ。