シリウスとポッターと別れて寮に戻り、僕は自室でベッドに寝そべった。

そして、初めて自分がホグワーツに行った日を思い返していた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い蒸気機関車、賑わうプラットホーム、そこで子どもが親との別れを惜しんでいる光景、

久し振りの友達に再会した嬉しそうな顔、不安げな様子…

そのすべて目に入った景色が僕にとって初めてだった。

 

 

 

長いホグワーツでの学校生活の始まりだった。

シリウスが二年ほど前から通っている学校だ。彼が入学する日には、正直ぐずってでも行かせたくはなかった。

僕は、生まれた時からいつでも一緒にいたシリウスと離れるのが嫌だった。

そんな彼と同じ学校で一年を過ごせると考えただけでも胸がわくわくしていた。

 

「凄く人で混んでるね、シリウス」

 

声を弾ませて振り向くと、さっきまで自分の後ろにいた彼の姿は何処にもいなかった。

 

「…シリウス…?」

「あの子はもう既に何処かへ行ってしまったわ」

 

母が何でもないように言ってのけた。

 

 

 

 

 

シリウスと母の仲は夏休みが来るたんびに悪くなっていった。

彼が入学した時、組分けでグリフィンドールに入ったと手紙を受けた時は皆目を疑った。

 

確かにシリウスはこの家では『変わり者』だった。

しかし、誰もが認める才能の持ち主で、少々この家で考えが変わっていながらも、

両親や親戚達、そして僕自身も彼がスリザリンに入ると確信していた。

その彼がグリフィンドールに入ったと知らせを知った時の母の取り乱し方は尋常ではなかった。

母は何度もシリウスに手紙を書いた。だが、彼は一通も返信をしなかった。

しかし、そんな彼が一度だけ彼女に返信した。母が書いた内容はこうだ。

 

 

『───シリウス、お前はこの家に生まれながらもその偏屈な寮に組分けされて満足なのかい?』

 

と。彼の返信はたった一言、

 

『Yes』

 

 

それからシリウスに対する母の態度は変わった。

組分けするまでは、少々『変わり者』であっても母は才能ある兄に少なからずも希望があった。

しかし今は違う。

その希望を僕に向けていた。だけどそんな兄変わりの僕は彼の足下にも及ばない。

そのことは親戚や両親も承知の上であった。

 

「レグルス、私はあなたが必ずスリザリンに入ると思っているわ」

「はい」

「手紙はちゃんと書いて頂戴ね」

「はい…いってきます」

 

コンパーメントの入口で母との別れを告げた。汽笛がなり、ホグワーツ特急は出発した。

 

 

 

 

僕は空いているコンパーメントを見つけ、荷物を入れて席に着いた。

先程、母と交わした言葉が頭の中で何度も反復される。

 

『手紙はちゃんと書いて頂戴ね』

 

シリウスには決して言わなかった言葉だった…組分けされる前も。

彼は昔から『ブラック家の長男』として扱われてきた。

もし、彼がこの別れ際に母に言われるとしたら

「ブラック家の長男として恥をかかないように」とか

「家名に泥を塗るようなことはしないように」だっただろう。

兄に厳しくする分、母は弟の僕に優しくしているようだった。

幼い自分にとって母親を独占できるのは嬉しいことだが、シリウスがあまりにも干渉されてないように思えた。

僕は母に干渉されない兄が可哀相だった。

だが、そこで自分が母に「僕だけじゃなくてシリウスにもかまってあげて」と言い出す勇気はなかった。

僕がそうやって心の中で格闘している時には既に、兄の心には『家族』という言葉はなかったかもしれない───

 

 

 

 

 

「やっと空いてる所見つけた」

「もう荷物重すぎてヤダぁー」

「ほら入って入って」

 

何やら通路が騒がしかった。自分がいるコンパーメントの後ろに人が入ったようだった。

僕はその会話を聞くともなく聞いていた。

 

「痛いっ!」

「どうしたのピーター、大丈夫?」

「足の上に荷物おっことしちゃった…」

「ピーター君、悪戯仕掛人が足を怪我したら命取りだぞ───悪戯がバレて逃げる時に不利だ」

「バレる前提?」

「おッと、失言だねこれは」

 

会話している三人が笑った。

 

「ところで我らが王子。君は僕に会ってそうそう、なんでそんなにむっつりなんだい?僕に久しぶりに会ってビックリして声も出ない?

 そうだよ友よ、僕はこの夏休みでとうとう君に身長が追いついたのだから!」

「お前は会ってそうそう俺にそのマシンガントークをお見舞いするのか。

 マダム・マルキン洋装店の『一度閉じたら二度と開かないジッパー』でも使ってお前の口に縫ってその口を黙らせたいね」

「皮肉も上々じゃないか、シリウス。でも怒るなよ。

 僕の身長が伸びたのは単なる成長期の過程であって、君に身長が追いついたこともごくごく当たり前のことであり…」

「うるさいっ!」

「まぁまぁ二人とも…」

 

 

 

 

 

その時の僕といったら一人コンパーメントで氷のように固まっていた。

それは初めて『ブラック家の長男』ではないシリウスの本当の姿を垣間見た気がしたからだった。

 

 

 

 

 

───この時からだったろうか。ポッターを嫌いになったのは。

 

 

 

 

 


結構気に入ってたり。鹿と犬の会話が特に(* ̄▽ ̄*)ふふん

 

鹿「やっと空いてる所見つけた」

鼠「もう荷物重すぎてヤダぁー」

狼「ほら入って入って」

なんだよねここの会話。書かないとわからんわな(:;:д:;:)

リーマスはこのサイトで保護者的発言をいつもする。

06/10/14